森美術館館長・片岡真実が語る“コロナ禍での美術館運営”の苦悩と活路　「50年くらい時計の針を進めることになったかも」

“自分がよければいい”では、美術業界は生き延びられない

ーー昨年のインタビューなども拝見したのですが、就任当初の2020年1月頃と現在では、大枠の志は変わらずとも、スタンスに変化があったのではないでしょうか？　いまだからお話できる森美術館のあり方を、改めて教えてください。

片岡：就任時に5つのビジョンを発表していますが、それはコロナ禍でも変える必要はないと思っています。なかでも「アナザーエナジー展」のテーマでもあるダイバーシティは、この世界を多様な角度から切り取って考えるためにも重要です。

　もうひとつ重要なのは、先ほどのTikTokのイベントのように、業界の連携を深めることです。コロナ禍になって、森美術館に限らず、美術館・博物館が社会に対してどのような役割を果たしているか、芸術文化が人々にとって必要不可欠なのかを問うことになりました。美術業界が一丸となって社会や政治に向けて発信していくことがますます必要になっています。

ーー最後に、今開催されている「アナザーエナジー展」について教えてください。

片岡：活動拠点も表現方法も異なる、70歳以上の女性アーティスト16人を集めています。スケール感が壮大なものもあれば、すごく繊細なものも、珍しい素材を使った作品もあり、楽しんでいただけるのではないでしょうか。SNSで簡単な解説もしているので、予習をしていただきつつ、リアルで見ていただけるとうれしいです。

　アーティストたちの多くは、当初来日を予定していました。88歳のアンナ・ベラ・ガイゲルなどは、「ワクチンを2回打ったけど、いつチケット買えばいいかしら？」と連絡をくれたほどです。今はまだ来日は厳しいですが、状況が改善したら是非リアルでアーティストにも見て欲しいですね。

　昨年からSNSライブに力を入れてみて、いろんな人のライブリーなリアクションが伝わる面白さを感じました。TikTok LIVEでも、本当にポジティブなリアクションをたくさん受け取っています。社会全体で気持ちが落ち込んでいる今だからこそ、「アナザーエナジー展」で生き続けるための特別なエネルギーをお届けしたいです。

■作品概要
※1
フィリダ・バーロウ
《アンダーカバー2》
2020年
木材、合板、セメント、スクリム（布）、石膏、ポリウレタンフォーム、塗料、PVA（合成樹脂）、キャラコ（布）、鋼鉄
サイズ可変
Courtesy: Hauser & Wirth
展示風景：「アナザーエナジー展：挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」森美術館（東京）2021年
撮影：古川裕也
画像提供：森美術館

※2
アンナ・ボギギアン 《シルクロード》
2021年
インスタレーション
サイズ可変
展示風景：「アナザーエナジー展：挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」森美術館（東京）2021年
撮影：古川裕也
画像提供：森美術館

※3
カルメン・ヘレラ
展示風景：「アナザーエナジー展：挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」森美術館（東京）2021年
撮影：古川裕也
画像提供：森美術館

■関連リンク
森美術館公式HP
『アナザーエナジー展：挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人』
森美術館公式TikTok