テレビとYouTubeの現在地(第3回)

フジテレビ・FODが目指すのは“共存”のための“差別化” 激化する動画配信市場で見せた「テレビ局の制作力」とは

 多くの芸能人がYouTubeデビューを果たした。タレントのインターネットへの露出が増えたことにより、メディアとYouTubeなどのネットメディアの両方の存在を感じながら、番組や動画の企画を立てることはもはや当たり前になりつつある。

 連載企画「テレビとYouTubeの現在地」では両メディアに関わりを持つ有識者に、テレビとYouTube、ネットメディアは今後どんな関係性を築いていくのかをインタビューし未来を予測していく。

 フジテレビが運営する動画配信サービス「FOD(https://fod.fujitv.co.jp/s/)」は、群雄割拠とも呼べる動画配信市場のなかでも順調にサービスを成長させている。

 同サービスのサブスクリプションプラン「FODプレミアム」を利用すれば、フジテレビ系列のドラマやバラエティはもちろん、話題のアニメや漫画、150誌以上の雑誌が読み放題になるなど、多くの動画コンテンツを楽しむことができる。

 さらには、テレビ局ならではの映像制作力を生かし、独自コンテンツを提供することで、FODでしか味わえない視聴体験を創出しているのだ。

 今回はFOD事業執行責任者の野村和生氏へ、FODが支持されている理由や、テレビとYouTubeの将来性について話を聞いた。(古田島大介)

4G対応のスマホ普及が成長の足がかりとなる

 FODは現在、累計1,800万ダウンロードを超える動画配信サービスとなっており、民放最大手の規模を誇っている。

 しかしサービス開始当初は、鳴かず飛ばずの状態がしばらく続いたと野村氏は言う。

 「2005年にFODを立ち上げた当時は、地上波コンテンツの二次利用におけるルールが明文化されておらず、配信コンテンツのラインナップが十分に揃えられなかったために、なかなかユーザーに受け入れられない状況でした。またこの頃はケーブルテレビ全盛の時代で、3Gのフィーチャーフォンの携帯端末では動画視聴できるほどのスペックがなかったのもサービスがなかなか成長しなかった一因でした」

 一時はFOD事業の撤退も検討されていたというが、潮目が変わったのは2012年にLTE(4G)対応のスマートフォン(以下 スマホ)が普及した時期だった。

 これまで動画コンテンツといえば、パソコンやタブレット端末で見るのが一般的だったが、4Gのスマホが登場したことにより、携帯画面でワンセグ以上のクオリティで動画を楽しめるようになったのだ。

 「私は2012年からFOD事業に参画していますが、当時は確信を持って数少ない経営資源をスマホに投下したんです。若者をターゲットに据え、FODをスマホで操作しやすいようなUI・UXを研ぎ澄ませたことで、サービスが軌道に乗り始めました」

 他の民放局よりも先駆けて、「携帯端末で高画質の動画を視聴する」という新たな体験をユーザーに提供したことが、FODの認知度を高めるきっかけになった。

海外OTT台頭の波を受け、月額サブスク型の「FODプレミアム」をリリース

 だが、2011年から国内で展開していた「Hulu」に次いで、2015年には「Amazon Prime Video」や「Netflix」といった海外勢が日本でサービスを開始したことで、動画配信市場の競争はさらに激化する状況となった。

 そんななか、FODは2016年に都度課金から月額サブスクリプション型の「FODプレミアム」をリリースし、ビジネスモデルを転換させた。

 FODプレミアムを開始した背景について野村氏は「OTT(※編注)サービス台頭に伴い、新たなFODの付加価値を見出すために月額定額制のサービスを開始した」とし、次のように説明する。
※Over The Topの略。インターネットを通じて映像や音声コンテンツを提供する手段のこと

 「今まで都度課金中心でやっていましたが、月額課金が主流の海外発の動画配信サービスが拡大すれば、必ずユーザーのニーズも多様化すると考えていました。そのため、FODもサブスクリプションへ舵を切るために議論を重ね、2016年8月にFODプレミアムをリリースしました。導線として工夫したのは、TVerのような無料で視聴できる見逃し配信コンテンツを取り入れ、同一アプリでの有料会員ユーザーへの転換を図ったことでした。

 また、核となる見放題の動画コンテンツには、今話題のバラエティ番組やドラマのほか、過去の名作も取り揃え、幅広い層へアプローチできるようにラインナップ拡充を意識しました。さらにはフジテレビ以外にも、NHKやテレビ朝日など他局のドラマも配信していて、テレビ局の垣根を超えたサービスとして展開しているところも、独自性のある点だと思っています」

FODプレミアムを訴求するため、作品のあらすじをYouTube配信している

 そのほか、多種多様な電子書籍のラインナップを取り揃えたり、人気雑誌の読み放題を付帯するなど、FODプレミアムはジャンルレスに多様なエンターテインメントを提供するサービスになった。

 本連載のテーマである「テレビとYouTubeの関係性」。

 FODのサービス成長を牽引してきた野村氏は「互いに役割が違うからこそ、うまく使い分けることが求められる」と話す。

 「FODもYouTubeの公式チャンネルを持っていますが、宣伝のツールとして使っています。どんなに良い作品を作っても、タイトルだけだと課金してまで見ようとは思わない。そのため予告篇のような形で、ある程度作品のあらすじをYouTubeで配信することで、FODプレミアムに入会したくなるような補完的な立ち位置で運営していますね」

FOD限定のオリジナルコンテンツが独自性を生み出す

 最近では、フジテレビで配信していないアニメの独占配信やアジアドラマに注力しているという。

 「TVアニメ『ゴールデンカムイ』や『NIGHT HEAD2041』の独占配信コンテンツを提供しているほか、近年制作のクオリティが上がっているアジアドラマもコンテンツを増やしていますね。FODプレミアムでしか見られない独自のコンテンツをいかに提供できるかはサービス成長の鍵だと考えています」

 なかでも、テレビ局ならではの番組制作力を生かしたFOD限定のオリジナル番組は、「FODの有料会員数を増やす原動力になっている」と野村氏は説明する。

 「まず前提にあるのが、少子高齢化により地上波に流れるテレビ番組を見る年齢層が上がってきていること。過去のように若者へ振り切ったドラマを制作しづらくなっている分、モバイルを主体としたFODではターゲットを絞ってコンテンツを制作できるので、恋愛ドラマやラブコメディのような若者ウケするようなものも振り切って制作できるんです。こうした地上波に流れないFODオリジナルの番組は、ユーザー満足度が高まる要因になる一方、制作側にも良い影響を与えています。

 これから注目の俳優を抜擢できたり、若手ディレクターを起用したりすることで、次世代に活躍できる人材を育てられることもオリジナル番組を制作するメリットでしょう。そして何より、テレビ局が持つ番組制作のノウハウを駆使することで、地上波に流せるくらいのクオリティで仕上げることができるのはFODの最大の強みと言えます」

 平成の名作ドラマを令和時代に合わせて再ドラマ化した「東京ラブストーリー」や、アニメ化や映画化されて話題となったBL(ボーイズラブ)作品「ギヴン」は代表例として挙げられるだろう。

関連記事