「はじまりのゼルダ」であり「おわりのゼルダ」だった――『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』が描いた“アタリマエ”の究極形

 『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』は、ゼルダシリーズの中で最も古い時代を舞台にした作品だ。過去に同じく、古い時代が舞台であることをアピールしていた『ゼルダ』シリーズには、1998年の『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(NINTENDO64)があった。それよりもさらに昔、後に作られた時系列の最初に位置する本作は、まさに「はじまりのゼルダ」とも称せるだろう。

 そんな『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』の発売から、今年の11月23日で10年が経つ。奇しくもそんな年の7月16日、『ゼルダの伝説 スカイウォードソードHD』がNintendo Switchで発売され、鮮明かつ美麗になった映像、ボタンとコントロールスティックを用いる新しい操作と共に楽しめるようになった。筆者は過去にオリジナルのWii版をクリア済み。そのため、今回のNintendo Switch版は事実上の周回プレイの感覚で遊んだ格好となった。

 それを通して感じたのは、本作は「はじまりのゼルダ」であると同時に「おわりのゼルダ」でもあったこと。後に「アタリマエ」と称された、伝統的なスタイルを踏襲した『ゼルダ』シリーズ最後の完全新作で、その限界に挑んだ傑作だったということである。

新しさを求めつつ、長年続いた一本道構造という“アタリマエ”

「ゼルダのアタリマエを見直す」。

 このような発言が出たのは、2013年1月放送の「Wii U Direct Nintendo Games 2013.1.23」だった。発言主であるシリーズプロデューサーの任天堂・青沼英二氏は、今後の『ゼルダ』シリーズはその方向性を元に開発され、当時発表された新作『ゼルダ』、後の『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』もそれを踏襲した内容になることを暗に語っていた。

ゼルダの伝説 最新作 Developer Story

 『ゼルダ』シリーズの「アタリマエ」とは何か。

 それは予め決められた道筋に沿って遊ぶこと、「一本道」の構造だった。

 『ゼルダ』シリーズは1986年にファミリーコンピュータディスクシステム用ソフトとして誕生して以降、多くのシリーズ作が開発され、常に新しいことに挑戦し続けてきた。

 1991年発売の『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』では光と闇の2面性を持ったフィールドマップの実装。前述でも挙げた時のオカリナでは、初の完全3D化と同時にその後の3Dアクションゲームに革新をもたらした「注目システム」の搭載。その続編『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』では、3日間の時間を何度も行き交う「三日間システム」とお面を付けて特殊なアクションを可能にする「お面システム」。ニンテンドーDSの『ゼルダの伝説 夢幻の砂時計』ではタッチペン1本で完結する操作スタイル。そして本作、スカイウォードソードでは、Wiiリモコンプラスによる細かい角度調整を可能にした直感的な剣術アクション。

 いずれも前作にはない、その『ゼルダ』でしか味わえない独自の体験を提供するものが完成していた。

 しかし、ゲームの根本的な遊び方は一貫していた。ダンジョンに入り、そこで謎を解きながら新しいアイテムを見つけ、そのアイテムを使って次のダンジョンを見つけてはの繰り返しである。どんな前作とは全く違う遊びがあろうと、その仕組みは従来通りで、それが『ゼルダ』シリーズという作品を形成し、「アタリマエ」とも称せるものとして定着していた。

 しかし、この遊びには、少しでも行き詰まれば先に進めなくなるという、大きな問題が隠されていた。その遊びが限界に達していると気付かされたのが本作、スカイウォードソードであったことを青沼氏は某ゲームメディア掲載のインタビューで言及しており、以降の『ゼルダ』シリーズはその脱却を図っていくようになった。

 実際に2013年12月発売の新作、『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』(ニンテンドー3DS)では、アイテムをレンタルするシステムが導入され、プレイヤーの好きな順番でダンジョンを攻略していける新たな方式が採用されている。

ゼルダの伝説 神々のトライフォース2 紹介映像

 この『神々のトライフォース2』でディレクターを務められた任天堂の四方宏昌氏は、任天堂公式サイトの「社長が訊く」にて、従来の一本道の遊びが問題だと感じていたとも発言しており、そこから議論した結果が同作のアイテムレンタルシステムへと繋がったという。

 そして、2017年発売の『ブレス オブ ザ ワイルド』で、アタリマエからの完全な脱却が図られた。

 こうした現在に至るまでの経緯を振り返ると、『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』はまさにアタリマエの「終わり」に当たる新作だった。

 時系列では「はじまり」だが、ゲームの遊びとしての歴史は「おわり」。厳密には現在もリメイク、リマスター版の『ゼルダ』シリーズでは従来のアタリマエが続いている。

 しかし、新作という視点では、『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』はまさに「最後」だったのである。

一本道の遊びと面白さをとことん突き詰めていたスカイウォードソード

 そんな『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』は、改めて遊んでみると、『ゼルダ』のアタリマエこと、一本道の遊びをとことん突き詰めた作品だったことに改めて気付かされる。

 『ゼルダ』シリーズと言えば前述の通り、ダンジョンに潜って様々な謎を解いていくのが本編全体の要になっている。もう少し具体的に書くと、広大なフィールドを巡り歩いてストーリーを進め、ダンジョンを発見し、潜って謎を解いてアイテムを見つけ、最奥で待ち構えるボスを倒してキーアイテムを手に入れる、といった感じだ。

 『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』はダンジョンに限らず、フィールドにも様々な謎解きやイベントが詰め込まれた構造になり、さながら全部がダンジョンともいえる大胆な作りになっている。厳密には本編の主な舞台「地上」がそのようになっていて、いつになく密度の濃い作りでまとめられているのだ。この作りを任天堂は当時から「濃密ゼルダ」と称している。

 その言葉通り、謎解きはもちろん、人助けに物探し、迷路巡り、船を操縦しながらの航海、果ては精神世界を舞台にしたステルスアクションなど、膨大なネタがひとつのフィールド上に詰め込まれている。地上のフィールドは3つと数こそ少ないが、その分ストーリーでの再訪が何度か生じ、その度に新しいエリアへと足を踏み入れることになるといった変化が描かれる。すでに攻略したエリアでも、新たなイベント発生と同時に構造が大きく変わったり、環境の印象からかけ離れたイベントが始まるなど、様々なパターンが用意されていて、プレイヤーを飽きさせない工夫の徹底ぶりがうかがえる。

 ダンジョンも従来のアタリマエに則りつつ、本作特有の直感的な操作を元にした独自のネタを凝縮。ポイントごとに途中経過を保存できるシステムを搭載し、一呼吸おきながら進めていけるよう遊びやすさにも配慮した作りに一新している。

 また、最後に対峙するボスの攻略法にも過去の“お約束”を外したところがあり、取り分け最初のダンジョン「天望の神殿」で登場する「ギラヒム」は、その象徴的存在と言えるだろう。

 地上に限らず、物語のスタート地点となる大空にも数多くの小島が浮遊しており、そこに沢山のアイテムが隠されているほか、ミニゲーム的なイベントも豊富だ。
主人公リンクとヒロインのゼルダの故郷である「スカイロフト」もまた然りで、終盤になると最初の印象からは想像だにしなかったイベントも起きる。夜にならなければ足を踏み入れられない場所もあったりと、普通に進めていると気付けないネタも結構あり、全てを把握し尽くすだけでも相当なやり応えがある。

 まさにひとつの道の上にネタに次ぐネタを盛り込んで、徹底的におもてなすかのような構造。これを踏まえてか、本作は次に進むべき場所などを教えてくれる場面も多く、ガイド機能も充実しており、道の上に仕込まれたネタの数々を余すことなく堪能して欲しいとの意図が滲み出ている。

 裏を返せば、こうもネタを仕込んだ反動で行き詰まった時には進まなくなる、アタリマエの問題点は相応に目立っている。また、地上のフィールドはデザインの関係で全体的に局地のイメージが強く、広大という設定とは裏腹の窮屈なものになっている。おかげで仕込まれたネタが際立ってたり、進むべき方向が分かりやすいが、いつになく道が絞り込まれている印象も抱かせる。

 なるほど、確かにこれでは行き詰まると大変。だが、似通ったネタが全然ない上、1つのフィールドに複数の顔を持たせるように作っているのは率直に言って圧巻。まさしく濃密、究極の一本道ゼルダだとも言える。

 そこを突き詰めた結果、続く『ゼルダ』シリーズがそこから脱却に進んだのを思うと、本作が完成させた構造には皮肉なものを感じもするが。また、件のギラヒムに象徴される通り、本作は戦闘難易度も若干高めに設定されている。というより、コントローラを剣に見立てて動かす操作の独特さも相まって、慣れが必要とされる。謎解き盛り沢山に加え、戦闘を始めとするアクション部分も手強い。このような作りでは、途中で行き詰まった当時のプレイヤーも少なくなかった可能性は十分にあり得るだろう。

関連記事