新ゲームハード「Steam Deck」が売切れ必至になる、と言い切れる理由

「Steam Deck」は売切れ必至、と言い切れる理由

Valveが見据えるT字型戦略とは

 そもそも、Valveとゲイブは海賊版を「憎んだ」わけではない。むしろ逆に、なぜ人は海賊版を利用するかを考え、その結果、わざわざ実店舗に赴き、CDを購入し、インストールをするよりも、ファイル共有ソフトでワンストップで事足りる海賊版のサービスの充実度に感銘を受け、その利便性をSteamで再現したところ、海賊版は激減した。ゲイブはこう話す。

 「一つ、確かに言えることは海賊版は値段の問題ではないということだ。だから海賊版を止めるもっとも冴えた方法は、ユーザーに面倒なプロテクトを強要することではなく、むしろ海賊版を利用するよりもより良いサービスを与えてやることなのである」

 かくしてSteamは海賊が跋扈するPCゲームという魔海に、大きな秩序を作り、その上で文化を築いた。Valveの驚くべき点は、『Half-Life』というゲーム開発の成功にのみ満足せず、その成功を元手に次々に手を広げ、常識を覆していった点である。同時に、MODコミュニティやインディーゲームもまた市場に取り込み、ゲームの流通網を世界に広げるなど、常に国籍や市場、文化の間に存在する障壁を破壊し続けるのも、Valveが異端たる所以だった。

 そのような異端の哲学の上に成立しているのが、今回発表されたSteam Deckである。新たな枠を作るのではなく、むしろ枠を破壊し、広げるためのハード、Steam Deck。故に、魅力的な独自のラインナップを持つSwitchやPS5の輝きはSteam Deckが出ようと色褪せず、同時に、PCという深海は任天堂やSIEに立ち入れるほど浅くもない。Switchと安直に比較する報道は、まるでこの哲学の差異が理解できていないのだ。

 むしろ、比較するべきは同じくValveが2019年に発売したVRヘッドセット「Valve Index」だろう。最大130度の視野角、両目で2,880×1,600の解像度、さらに最大144hzのリフレッシュレートと業界を驚かせたスペックから、更にもう出ないと考えられていたシリーズ新作『Half-Life: Alyx』により、ソフト・ハード両面において非の打ち所のないVRの開発力を誇示した。

Valveが2019年に発売したVRヘッドセット「Valve Index」
Valveが2019年に発売したVRヘッドセット「Valve Index」

 現在のValveはPCゲームという地平を「Steam Deck」で水平に拡張し、VRゲームという宇宙を「Valve Index」で垂直に開拓する。ゲーム業界広しといえど、これほどダイナミックかつボーダレスな経営姿勢はなかなか見られない。「Steam Deck」はValveが打ち出すピカレスクロマンの、ほんの1小節に過ぎないのだ。

(Source)
https://www.nintendo.com/switch/system/
https://news.denfaminicogamer.jp/news/210216e/attachment/image1-465
https://jp.techcrunch.com/2021/07/19/steam-deck-can-install-windows/
https://www.gamespark.jp/article/2021/01/14/105259.html
https://www.nintendo.co.jp/ir/en/finance/hard_soft/
https://www.geekwire.com/2011/experiments-video-game-economics-valves-gabe-newell/

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