「3DCG業界全体の働き方を改善するために」 Cygamesが“原則リモート”の子会社を立ち上げた理由とは
2020年から続くコロナ禍に対応するため、ゲーム業界でもリモートワークの導入が進んでいる。
『ウマ娘 プリティーダービー』などで知られるCygames(サイゲームス)も昨年来、全面的にリモートワークを導入している。そのCygamesが、3DCG制作を行う子会社「CySphere(サイスフィア)」を設立。新会社はリモートワークをベースに運営していくという。
CG業界でリモートワークをベースに運営する会社は少なく、働き方改革の必要が叫ばれ、多様な働き方への対応が業界全体で必要とされるなか、同社の試みは先進的と言える。同社設立の狙いと展望をCySphere代表取締役の伊藤聡氏に聞いた。
仕事もプライベートも充実できる会社を目指す
――貴社のミッションステートメントのひとつに「仕事もプライベートも最高の結果を出す」とあります。ミッションステートメントでプライベートに言及するのは珍しいのではないかと思います。
伊藤:弊社はリモートワークをベースに運営していきます。リモートワークのメリットは、自宅というプライベート空間で仕事ができることですから、ならば仕事もプライベートも同時に追求していくことを掲げるのが良いと思ったんです。
――リモートワークをベースにして会社を運営するという発想は、やはりコロナ禍での経験があったからこそ生まれたのでしょうか。
伊藤:その通りです。コロナ禍でCygames、あるいはゲーム業界全体で出社せずに自宅で仕事をしようという大きな流れが生まれました。最初は、みんなそれは難しいんじゃないかと思っていたのですが、実際にやってみたら出来てしまったというのが正直なところです。ならば、最初からリモートワーク主体の会社運営も可能だと思い、働く人にとってもその方がプラスになるのではないかと考えています。
あくまでも現状ではありますが、今はCygamesにおいても、どうしても出社が必要な場合を除き、オフィスかリモートワークか、それぞれの部署で相談して各自が働きやすい方を選んで業務しています。
――貴社は海外在住者でも応募可能なのでしょうか。
伊藤:現状、そこのところは我々の体制が整い切っていない状態で、データ転送やセキュリティ面でまだインフラが追いついていません。一番怖いのは情報漏洩のリスクですが、そこさえクリアできれば海外在住でも問題ないと考えています。弊社の採用活動は、今のところ公式サイトにしか出していないのですが、すでに海外在住の方からもお問合せをいただいておりますので、そうした方も採用できるよう長期的な目標として進めていくこともありだと考えています。
――ゲーム業界では、何年か前から働き方改革の必要性が叫ばれていたと思いますが、Cygamesさんは、コロナの感染拡大による緊急事態宣言が出る前から、リモートワークの導入準備をしていらっしゃったのですか。
伊藤:私が聞く限りでは、「具体的にやっていきましょう」というところまでは進んでいなかったようです。しかし、Cygamesや親会社のサイバーエージェントはやると決まれば動きが早いですから、バックエンドからフロントエンドまで、それに向けて邁進した結果、やれそうだということで現在のような体制ができました。
リモートベースは人材不足解消につながる
――オフィスに出社することがベースにあると、どうしてもオフィス近辺や沿線上に住んでいて出社可能な人しか採用できないわけですが、リモートベースになると採用の幅を広げられそうです。
伊藤:そうですね。そもそも、弊社設立の大きな目的のひとつに、Cygamesの人員体制の強化もあるんです。
――「仕事もプライベートも最高の結果を出す」というミッションステートメントも、人材不足の業界の中で、優秀な人材を獲得していくための強力なインセンティブになるというお考えなのでしょうか。
伊藤:もちろんそうです。
――お金による評価だけでは、今後の人材獲得競争には不十分と考えますか。
伊藤:お金ももちろん大切ですが、時代とともに人の価値観は変わってきています。お子さんと一緒の時間をたくさん持ちたいとか、いろいろな人生の過ごし方がありますから、そういうことを大切にしていきたいわけです。
さらに、年をとってきますと、親御さんを介護しないといけない人も出てきますから、そういう方でも働けるようにしていきたいんです。オフィスベースの会社ですと、地方から東京に来て、仕事が忙しくて実家に戻れない、それで親の面倒を見られないとなると、それが心のプレッシャーになると思うんです。出産・子育てのために、一度仕事を離れる人もいますし、そういう方もリモートベースなら働きやすくなると思います。そういった多様なニーズに応えて優秀な人材を集めていきたいんです。
――これはジェンダーバランスの是正にもつながるかもしれませんね。
伊藤:もちろん、そういう点についても考慮させていただいております。育休制度についても、取得しやすい環境作りをしていますから、そのあたりも心配なく働いていただけると思います。
――まだ採用活動中だと思いますが、どんな人材を求めているのでしょうか。
伊藤:優秀な方はもちろんですが、私が大切にするのは、人に対して敬意を持って働くということです。CG業界は、教える、教えられることが必ずあります。そういう時に敬意を持って接することができるかどうかが、成果にも結びついてきます。特に、リモートワークのコミュニケーションは、端的な言葉のやり取りになりますから、なおさら人に敬意を持つべきです。
――Cygamesさんも昨年の4月には、新入社員の方が入社されているのですよね。入社したばかりで緊急事態宣言が発令されて、いきなりリモートワークになったのだと思いますが、新人の育成・指導をどのように行ったのでしょうか。
伊藤:全てがはじめてのことでしたから、正直手探りでした。Cygamesはみんなでゲームを作ろうという姿勢を大切にしています。そこを考えて、新しく入ってきた方々には、ケアやサポートはしっかりやってきました。
――具体的なコミュニケーションツールは、Slackや社内報を充実させるなど、いろいろ取り組んでおられたようですが、どんな課題がありましたか。
伊藤:やはり、Slackは顔が見えないのが一番大きな問題点でしたね。出社したときに、気軽に声をかけたりするようなことが案外大事なんだということもわかってきましたし、そういう声かけのようなことをリモートでやるのは、やはり難しいです。そういう点をどんな風にサポートしていけばいいかを、コロナ後もリモートワークを継続的に行っていくCySphereではもう一歩進んで考えていきたいです。
――育成をリモートで行うのは難しいとおっしゃる方は多いのですが、この1年でどう実感しましたか。
伊藤:結局、人に対してどれだけ時間を使えるかだと思います。画面を共有して赤ペンを入れるだけでも指導にはなりますが、Zoomなどを利用して顔を合わせて話をする時間をいかに作れるかが重要になってきます。
それと、これは私のポリシーですが、人に聞く前に自分で考えて動くことが大切だと思います。そうすれば、事前に不明点をまとめられますし、深い指導をしていくのもスムーズになります。採用については、自分で動ける人材かどうかも重要視したいですね。
――リモートがベースとなると、自分で率先して動ける人でないと仕事を前に進めていくことも難しいですし、それは重要なポイントですね。
伊藤:おっしゃる通りで、自分で動く気がない人、誰かがなんとかしてくれると思っている人は伸びません。ただ、ゲームは1人で作るものでなく、チームで作るものですから、先ほども言いましたが人に敬意を持ち、周りと円滑なコミュニケーションをとることも大切です。