『ポケモンユナイト』ネットワークテストから見えてきた、MOBAタイトルとしての“長所と短所”
昨年6月24日にその存在が明らかとなった『ポケットモンスター』シリーズの最新スピンオフ『Pokémon UNITE(以下、ポケモンユナイト)』。発表から1年となるのを前に、6月17日には、2021年7月のサービス開始と、リリースを見据えてのネットワークテストの実施(6月22~24日)がアナウンスされた。
本稿では、今回判明した詳しいゲーム性と、ネットワークテストから受け取ったインプレッションを踏まえ、『ポケモンユナイト』の、MOBAタイトルとしての“長所と短所”を考えていく。
ようやく明らかとなった『ポケモンユナイト』の詳しいゲーム性
昨年6月のお目見えの時点では、PVと開発段階でのテストプレイ映像しか公開されていなかった『ポケモンユナイト』。6月17日のアナウンスにおいては、より詳しいゲーム性のわかる動画が解禁となった。この動画から、同タイトルは以下のようなシステムを持つことが明らかとなっている。
・5人が1チームとなり、スコアを競い合うMOBAタイトル
・各チームのゴールが並ぶ上下2本のレーンと、その間のジャングルを舞台にゲームが進行する
・野生のポケモンを倒した際に手に入るエオスエナジーを相手ゴールに入れると、ポイントが加算
・操作できるポケモンには、それぞれに決められた役割・得意分野がある
・ポケモン同士にタイプ相性はない
・レベル1からスタートし、野生のポケモンを倒すとレベルアップできる
・試合開始から8分後には、「ラストスパート」と呼ばれるポイント2倍の時間が存在し、勝敗を決定づける要素として、マップの中央にサンダーが出現する
・オンラインマルチプレイに対応
開発発表当初、「操作できるポケモンには、それぞれに決められた役割・得意分野があること」「ポケモン同士にタイプ相性はないこと」などの要素は判明していなかった。当時の記事で私が懸念した「シリーズファンがお気に入りのポケモンだけを使い続けることによって衝突が引き起こされるリスク」については、存在こそすれ、最小化されているようだ。
一方で、将来的に対応するとされるクロスプレイについては一切言及されておらず、(スマートフォン版がサービス開始となる)2021年9月の時点で同機能を実装しているかは不透明となっている。友達同士でプラットフォームをまたいで遊ぶ予定のプレイヤーは、今後の動向を注視していく必要がある。
また、この動画が解禁となったタイミングでは、6月22~24日の3日間でネットワークテスト(6月22~24日)を実施することも発表された。同テストからは、MOBAタイトル『ポケモンユナイト』のシステムが持つ“長所と短所”が見えてきた。
『ポケモンユナイト』ネットワークテストから見えてきた、MOBAタイトルとしての“長所と短所”
『League of Legends』『Dota 2』などのタイトルで有名な“MOBA”は、eスポーツの代表ジャンルとしてもよく知られている。プレイヤー同士の対戦を基本とする性質から、ビギナー・ライトゲーマーにとってはハードルが高いとされる分野のひとつだ。こうした特徴は、おなじくeスポーツの代表ジャンルである対戦格闘やシューティング・バトルロイヤルなどにも共通する。タイトルとして、ジャンルとして、競技としての浸透を見据えたとき、この高いハードルをいかに下げられるかが、これらすべてにおける永遠の課題となっている。
この課題をある程度解決すると考えられるのが、『ポケモンユナイト』だ。同タイトルは「人気シリーズのスピンオフ作品」ということもあり、これまでMOBAに造詣がなかった層にも広くプレイされる可能性がある。もちろん、試しに触ってみた結果、肌に合わないと感じ、ドロップアウトするプレイヤーも一定数いるだろう。それでも「まずプレイしてもらうこと」が肝心だったジャンルにとっては、大きすぎる一歩だと言えるはずだ。
実際にネットワークテストでは、「MOBA初挑戦」とうたう参加者の存在も確認できた。今後、テストから正式リリース、スマートフォン版のローンチと段階が進むにつれ、こうしたプレイヤーはさらに増えていくに違いない。日本においてマイナーだったMOBAは、『ポケモンユナイト』によって、広く認知されるジャンルとなるかもしれない。
「アイテムビルド」の撤廃がもたらした“MOBAのカジュアル化”
くわえて『ポケモンユナイト』には、システム面にもハードルを下げる工夫が施されている。
既存のMOBAでは多くの場合、アイテムビルドを通じて、キャラクターの力に後天的な振り幅が与えられている。アイテムビルドとは、モブを倒すことで得られるお金を使い、少しずつ装備を整えていくシステムのことだ。選べるアイテムにはかなりの選択肢があり、その取捨によっては、キャラクターの力に天と地ほどの差が生まれることもある。同ジャンルにおいては、プレイヤースキルと並んで勝敗をわける、とても大切なシステムである。特定のタイトルを初めてプレイするケースでは、各アイテムの特性や、キャラクターごとの選択のセオリーなどをまず知らなくてはならない。この知識の重要性が、MOBAのハードルの高さにもつながっている。
『ポケモンユナイト』は、MOBAの根幹とも言えるアイテムビルドのシステムを排除し、ビギナー・ライトゲーマーでも親しみやすいゲーム性を実現していた。同システムの代わりとして採用されているのは、レベルアップで覚える「わざ」を選択できる仕組みだ。この仕様は、「人気シリーズのスピンオフ作品」という背景を持つ『ポケモンユナイト』と相性がいい。それでいて、都度2つから選ぶという“ちょうどいい幅の狭さ”も、同タイトルに抜群のカジュアルさをもたらしている。
プレイヤーは、先天的なポケモンのポテンシャルの差、技術の向上といった要素に集中でき、アイテムビルドのような「一見して不確定で、予備知識を必要とする要素」に向き合う必要がなくなる。そのため、ビギナー・ライトゲーマーであっても簡単に、MOBAの世界を楽しめてしまうのだ。
おそらく『ポケモンユナイト』は、多くの「MOBA初挑戦」のプレイヤーに親しまれるタイトルとなるだろう。テストプレイからは、ただのMOBAタイトルでは終わらない、緻密なゲームデザインをうかがえた。