連載「それは、TikTokからはじまる。」 第一回:川崎鷹也
川崎鷹也が語る、人生が一変したTikTokへの思い 「いいものは数年経ってもバズることを証明できた」
音楽アーティスト、タレント、俳優など、ここ数年、TikTokをきっかけにブレイクしたクリエイターが増加している。今回よりスタートする連載「それは、TikTokからはじまる。」は、TikTokによって人生が一変した表現者たちに話を聞き、彼らのルーツやブレイク前後の秘話、改めて振り返る“バズ”の思い出や、TikTokというプラットフォームに思うことを記録していくものだ。
第一回となる今回には、「魔法の絨毯」がTikTok経由でバズを起こし、SpotifyやLINE MUSICといった音楽ストリーミングサービスでもランキング上位入りを果たしたことで、アーティストとしてブレイクした川崎鷹也が登場。リリースから2年半というタイムラグを経て楽曲がオーバーグラウンドしたことへの思いや、前を向き続けられる原動力などについて、話を聞いた。(編集部)
“挫折したと感じることはない” 数名のファンと身近な人たちの存在に支えられ
ーーまずは川崎さんの音楽のルーツを教えてください。
川崎:両親や兄が音楽好きでしたね。母が車の中でゆずさんや福山雅治さんなど、J-POPを聴いていたのが今でも耳に残っています。
ーーその中でも、自分の楽曲に特に影響を与えているものはありますか?
川崎:清水翔太さんの音楽は、学生の頃から今に至るまでずっと聴いていますね。メロディラインや言葉の使い方、グルーヴ感とか、ブラックミュージックほどではないですが、後ろノリ(意図的にタイミングを遅らせてリズムを刻むこと)なスタイルが好きです。
ーーR&BとかHIPHOPなどの要素が入っているんですね。実際に音楽を作り始めたきっかけは何だったんですか?
川崎:初めて曲を書いたのは、18歳の頃、専門学校に上がってからですね。音楽系の学校だったので、授業の一環で曲を作りました。
ーーそれはどんな曲だったんですか?
川崎:「はじまりの詩」という曲なんですが、ちょっと前まではたまにライブで歌ってました。今思えばぶっきらぼうで、どストレートな応援歌みたいな曲でした。ラブソングでもなく、流行りを追うでもなく、やりたいことをやるっていう、当時の僕自身に向けて歌っているような曲です。
ーーアーティストとしてのキャリアの面では、紆余曲折あったように思います。その中で特に印象的なことや、挫折しそうになった瞬間などはありますか?
川崎:“挫折を経験した”と思うことはないですね。もちろん大変な時期はありましたよ。お客さんが入らなかったり、専門学校で他の生徒に実力差を見せつけられたり。でも皆さんに比べたら、僕の経験は挫折とは言えないと思います。
ーー挫折まではいかないにしても、ご自身の葛藤や悩みが曲に反映されているように感じました。いろんなことがあっても諦めずに前を向ける原動力は何ですか?
川崎:そうですね、今でも迷ってばかりです。こういう曲を書いたら多くの人に届くというセオリーもないですし、音楽に対する悩みはもちろんあります。でも諦めずにここまで来れたのは、ライブ会場に足を運んでくれる、顔も名前も覚えられるくらいの数名の方たちがいてくれたからですね。あとは自分自身を信じていたということと、事務所の社長やマネージャー、奥さんなど、1番近い人が本気で信じてくれていたことですね。1人だったらここまで突っ走ってこられなかったです。
基本的には迷って、悩んで、開き直っての繰り返しです。「魔法の絨毯」にしても、“これでいいのかな”と悩んで、“もう少しこうしよう”とか考えて、でも最後は“これはこれでいいでしょ”って開き直る。いいって言う人もいれば、ダメって人も絶対にいるので、自分がいいと思った瞬間に完成させればいいんだ、と開き直るようになりました。
「バズるには、とにかくアクションし続けること」 やり続けていたから今がある
ーー大ヒットした「魔法の絨毯」を制作した背景も聞かせてください。
川崎:奥さんと交際してすぐのときですね。彼女はディズニーや劇団四季が好きなんですが、人前に出る仕事をする人なら『アラジン』は必ず観た方がいいよってアドバイスをくれて。その後2人で観に行ったんですが、とにかく迫力がすごくて衝撃を受けましたね。劇の最中に、早くこの感覚を曲にしたいという気持ちが溢れてきて、帰ってすぐ作曲に取りかかりました。<アラジンのように>というフレーズが最初に浮かんで、そこから紡いでいったんです。
ーーご夫人との関係性なども曲の中に込められていますね。大衆に向けてというよりは、個人に向けて、プライベートな曲として書かれているように感じます。
川崎:そうですね。今でもそうですが、世間の皆さん全員に共感してほしいとは1ミリも思ってないんです。特定の誰かに届けばいいという信念と覚悟は変わらないですね。
ーーこの曲は、リリースから約3年後に急にバズる、という現象が起こりましたね。その当時のことを教えてください。
川崎:TikTokがきっかけで広まっているのを、僕はリアルタイムでは知らなかったんです。地元の友達とかその妹、弟たちが学校で聴いてるという連絡があって、“なんだその状況は?”と不思議な気持ちでした。それまでTikTokというのはダンスをやるアプリだと思っていて、インストールもしてなかったんです。でもいざ見てみたら弾き語りをしてる人もいるし、こういう表現をしてもいいプラットフォームなんだと気がつきました。
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ーーそこから一気に認知度が上がって、TikTokの枠を超えて活動されるようになりましたね。世間に自分の作品が広まっていくのを体感されてましたか?
川崎:コロナ禍でのバズりだったので、ライブでお客さんが増えていく感覚は味わえませんでしたし、正直未だに実感はなくて。ただ、街を歩いてたら声をかけてもらえるようになったり、ラジオの生放送後に出待ちしてる方がいたりして、すごく不思議な感覚です。
今年の3月に1年ぶりくらいのライブをしたんですが、300人の会場が満員になったんですよ。今まででは想像できなかった光景で、それをステージ上から見たときが1番実感を持てたかもしれません。
ーーそういう意味でも、川崎さんの人生に大きな影響を与えた楽曲ですよね。その後もTikTokはご覧になってますか?
川崎:バズってからは、毎日チェックするようになりました。「魔法の絨毯」の使われ方はもちろん、トレンドに入ってる曲をチェックして、どこが使われてるのかを確認したりしています。
ーー音楽以外のコンテンツもご覧になりますか?
川崎:見てますよ。お笑いとか、数秒の限られた時間の中で表現すること長けている人っておもしろいですよね。YouTubeとかインスタライブとは少し違って、最初からクライマックス、みたいな。それがTikTokのいいところですね。
ーーその中でも特に気になるクリエイターさんはいますか?
川崎:TikTokがきっかけで知り合って今でも交流がある、舟津真翔(ふなつまなと)君ですね。「魔法の絨毯」をカバーしてくれている人の動画はいろいろ見たんですが、彼のカバーを聴いたとき、この人だけは別格だと感じました。動画に「カバーありがとうございます」ってコメントしたら、彼からコンタクトがあって、その後TikTok LIVEでコラボしたりもしました。
ーーバズを経験した川崎さんから見て、ミュージシャンがTikTokを利用するメリットはどんなところですか? また今だからこそ言えることがあれば教えてください。
川崎:いまだに何がバズるのかわからなくて、僕がまたバズらせたいって思ってもなかなか難しいです。ただ短い時間でのパンチラインやメロディのキャッチーさ、ノリでどれくらいの人の心を掴めるかが勝負ですよね。そして学校で友達と話したくなるかどうか。
今だから言えることとしては、弾き語りとかライブとか、アクションし続けないとバズらないと思います。僕は「魔法の絨毯」公開後もライブをし続けていたので、それをきっかけに取材だったり、ライブやテレビのオファーをいただくことがありました。ずっと準備をし続けていたので、声がかかったときに戸惑わずに済んだのも大きかったんじゃないかなって。バズまで3年の空白がありましたが、そこでやめていたらオファーが来ることはなかったと思うんです。
今バズらなくても3年後バズる可能性があるのって、この時代ならではですよね。いいものは数年経ってもバズるってことは僕が証明できたと思うので、諦めないでやり続けてほしいです。そういう人がいると、僕も頑張れます。