連載:声とテクノロジーで変革する“メディアの未来”(第五回)

ゼロ年代から市場を作り上げ、会員数200万人突破ーー『audiobook.jp』久保田裕也に聞く「音声コンテンツの過去・現在・未来」

 コロナ禍の影響もあり、ここ1年でPodcastやインターネットラジオ、そして最近ではClubhouseなどの“音声”を軸としたサービスが増加し、ユーザー数を増やしている。そんな広がりを見せ始めた音声メディアや音声SNSについて、有識者に未来を予想し考察してもらう連載企画「声とテクノロジーで変革する“メディアの未来”」。

 『audiobook.jp』は、月額750円で対象のビジネス書などが聴き放題となるサービス(※単品販売もあり)で、6月に累計会員数200万人を突破したことが発表されるなど躍進を続けている。今回は、2007年に前身となる『FeBe』を立ち上げ、『audiobook.jp』を拡大させた株式会社オトバンク代表取締役・久保田裕也氏に、サービス立ち上げの経緯や現在の音声コンテンツ市場について聞いた。

市場がまったく存在しない状況からのスタート

株式会社オトバンク代表取締役・久保田裕也氏

ーー2007年に『FeBe』として立ち上げたオーディオブックのサービス。未来を予見していたかのような速さですが、サービスを始めた理由や、その背景について教えてください。

久保田裕也(以下、久保田):会社の設立が2004年末、私が入社したのは翌2005年の3月です。当初は視覚障害者向けの対面朗読を行うNPOの立ち上げを検討していたのですが、収益の見込めないボランティア的な活動では、出版社から音声化の許可を取るのが困難でした。ビジネスとしてなら可能性はあるのではと考えて市場分析を始めたところ、海外ではCDブックなども含めると1000億円くらいのマーケットが存在することが分かりました。

 一方で日本はどうかというと、音声コンテンツのサービスを提供する業者はほぼいない状況。その背景には権利関係などの特有のハードルがあるのですが、それでも挑戦してみようという話になりました。

 最初は本当に手探りで、どんなフォーマットを使うのか、どのレベルのクオリティなら受け入れてもらえるのかといった部分から考える必要がありました。そのための実験の場としてまずスタジオを作るところからスタートしています。

ーーサービスがスタートしてからの状況はどのような感じでしたか?

久保田:2007年1月に『FeBe』をスタートしたのですが、その段階ではとりあえず日本にある音源を集めてきて配信するという状況でした。自分たちで作ったものを配信したいという思いはもちろん持っていたのですが、当時はようやくガラケーで電子コミックが読まれるようになってきた時代。出版社にお話を持って行っても「デジタルで音声配信? なにそれ?」という反応ばかりで、とても理解を得られる段階ではありませんでした。

 しかし、2年くらい続けていているうちに、出版社の方にネット関連のお仕事でお声がけいただける機会も増えていき、そのなかで「この作品なら音声コンテンツにしていいよ」と言っていただけたりと、少しずつ作品を揃えられるようになっていったんです。

 最初はユーザーさんの数も少なかったので、お問合せをいただいた際にコミュニケーションをとり、どんなときに聴いているとか、この機能はいらないとか、逆にこういう機能がほしいといったことをヒアリングして、少しずつニーズを理解していきました。

ーーかなり早いタイミングでサービスを立ち上げているので、2010年代前半当時のオーディオブック市場はどのような空気感だったか、についても聞いてみたいです。

久保田:当時の出版社は「オーディオブックを出すと紙の本が売れなくなるのでは」という懸念が強かったのですが、それでも「試しに1冊出してみたい」というところが少しずつ増えていきました。

 そして、そういったトライアル的に出したオーディオブックで、通常の流通とは違う本が売れていくことにより、どうやら紙の本にとってマイナスになるものではないという認識が広まっていきました。2009年の下期くらいからは、いろいろな出版社からコンスタントにお声がけいただけるようになったと記憶しています。ジャンルとしては、最初は権利者の理解を得られやすいビジネス書関係が多かったですね。

 また、「アプリで本を聴く」体験を気軽にできるものがあるといいね、という話になり、2010年に『朗読少女』というアプリをリリースしました。女の子のキャラクターがアプリ内の部屋で本を朗読してくれるもので、最初は『羅生門』や『蜘蛛の糸』といった古い名作が中心だったのですが、さまざまなメディアで取り上げていただくうちに、出版社から「新刊のプロモーションとして読んでほしい」という依頼が入るようになり、ジャンルも広がっていきました。

ーーこの数年では、定額サービスの開始が大きな躍進の要因になったように思いますが、いかがでしょうか?

久保田:2018年に名称を『FeBe』から現在の『audiobook.jp』に変更して、定額聴き放題(サブスクリプション)のプランを導入したところ、一気にユーザー数が伸びていったんです。

 定額制サービス自体は2016年末くらいから検討していたのですが、裏側も含めてサービスを全部入れ替えるということになり、1年くらいかけてリニューアルしたので、少し時間がかかってしまいました。ちょうど音楽や映画でも定額制サービスが増えてきて、サブスクでコンテンツを利用することが当たり前になってきた時期だったので、タイミングとしては結果的にジャストだったのではないかと思います。

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