アーティストの活動に並走するTikTokの試み 絢香『TikTok Love Valentine’s LIVE』の例から考える

 TikTokが2020年7月に正式リリースしたライブ配信機能『TikTok LIVE』。新型コロナウイルスの影響で人と人が会えないことや、ライブが開催できない・見れないという社会的な背景もあり、同サービスは世界中で多くのユーザーに利用されている。

 音楽ライブについては、The WeekendがXRライブ『The Weeknd Experience』を行ったり、韓国ではApinkやMONSTA Xなどが出演する『TikTok Stage Live From Seoul』が配信されたりと、大規模なライブやフェスなどが同サービスによって世界中に拡散されている。

 日本でも多くのアーティストが同機能を使ったライブを大小規模さまざまに行っているが、直近で興味深い事例だったのは、絢香が開催した『TikTok Love Valentine’s LIVE』だ。

 同ライブは、日本で緊急事態宣言が再発令されているなかで迎えた2月14日のバレンタインデーにおいて「愛と感謝を伝えることをリモートでも盛り上げたい」という気持ちから、TikTokの「大切な人へ愛と感謝を伝えよう」キャンペーンの一環として企画されたもの。2月1日に15周年を迎えた絢香が同企画の思いに賛同し、TikTok公式アカウント(https://vt.tiktok.com/ZSJRHP1kP/)を開設。2月13日に累計20万人が視聴した配信ライブ『TikTok Love Valentine’s LIVE』を行った。

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TikTok Love Valentine’s LIVE 参加してくれてありがとう〜😊#絢香15周年 #絢香 #にじいろ#ありがとう#TikTokバレンタイン

♬ にじいろ - 絢香

 アカウント開設から公演開催までの期間には、事前に「大切な人へ伝えたい愛や感謝のメッセージ」を募集。ライブ当日は絢香が本人のエピソードとともにユーザーやファンのメッセージを読み上げ、そこに寄り添う歌を歌うという構成で届けられた。

 読み上げられたメッセージもさまざま。「悲しくて泣きたい時、何も言わずにぎゅっと握ってくれた手の温かさが何年経っても忘れられない。お母さん、いつも側で見守ってくれてありがとう」と母への感謝が込められていたり、「仕事柄不安定な中、コロナでも前向きに頑張れるのは彼のおかげです!いつも近くで見守ってくれて時には行動でも助けてくれていつもありがとう」とコロナ禍で支えあうカップルのメッセージや、「子供達へ 春から離れて暮らすのは寂しいけれど、貴方達は一人じゃない。いつでも帰れる場所がここにあるから。応援してるよ」と親からのエールがあったりと、色んな立場・世代から寄せられた言葉と、それを包み込む絢香の歌声に、視聴者からは「涙涙でした」、「パワー貰いました」というコメントが贈られた。

 コロナ禍で音楽業界はさまざまな影響を受けているが、アーティストが周年の節目にクローズドなイベントを実施できないというのは、そのキャリアに寄り添ってきたファンからすれば、一度しか訪れない機会を奪われたような悲しみがある。とはいえ、いわゆる“オンラインライブ”は、どこか距離の遠さを感じずにいられない。

 そういった意味でも、配信者を身近に感じることのできるTikTok LIVEや、今回のような双方向での施策を含んだ配信ライブは、この状況にピタリと当てはまるサービスであるように思う。加えて、既存のファン以外の幅広い層に届くことも、同プラットフォームを使用するメリットといえるだろう。

 アーティストが新たな試みを行う場として、双方向かつ広い世代に届くTikTokやTikTok LIVEを選ぶことは自然な流れなのだろうが、今回の絢香との取り組みのように、それぞれのキャリアとファンに寄り添う形で活用される事例が今後は増加していきそうだ。

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