放送作家・白武ときおが語る“音声メディアの未来” YouTubeラジオ局『PILOT』立ち上げの意図とは
「ながら見」に耐えるために必要なのは“信頼”
ーー視覚ではなく聴覚を取り合うことになると、必然的に「ながら見」できるコンテンツの需要が高まると思います。これについてはコンテンツをつくる側である白武さんはどう感じていますか。
白武:最近、そのことについてよく考えます。例えば芥川賞を受賞した小説を読もうと思ってもなかなか手が出ないのに、読んでも読まなくても変わらないネット記事はすぐ読めたり、フレンチはとっておきの日じゃないと食べに行かないけれど、コンビニのご飯は毎日食べたり。ネットや技術の進化で、今すぐにできることや簡単にできることが当たり前になってしまって、時間を割いて作品と向き合おうとする時間がどんどん減っているなと。その分、ながら見できたりする集中力のいらないコンテンツが増えて面白いんですけど、一方でそれでいいのかという疑問も抱いてしまいます。
現代人は忙しいですから「どうせ時間を割くんだったらみんなが観ているものを」という感覚があると思っていて。だから『鬼滅の刃』や『半沢直樹』(TBS)のようなスマッシュヒットを誕生させているのではないかと。
ーーなるほど。流行っていてみんなが評価しているものなら、時間を無駄にするリスクも低いし、時間を割り当ててもいいと。
白武:そうですね。「そこそこ面白い」というものには、なかなか手が出ない。今は自分に最適なコンテンツをピンポイントで与えてくれる時代なので、それを見ればいい。ただ、必ずしも自分の趣味ではなくても、スマッシュヒットを飛ばすような作品は、テレビやSNSなどいろんなところで話題になっていて「お祭り騒ぎ」になっているため、その内容を理解していないと流行やノリなどいろいろなものが楽しめなくなってしまう。そういった理由からスマッシュヒットしているコンテンツに触れる人は多いです。
作品の面白さに加えて「お祭り騒ぎ」にできるかどうかがカギになると思います。『鬼滅の刃』は巣ごもり消費で膨大に時間がある中で「鬼を退治するという」勧善懲悪のわかりやすい内容。Netflixなどの配信サービスでも見られていつでも一気見ができて、すぐに追いつけるちょうどいい長さで……。作品の面白さが大前提としてある上に、いろんな要素が重なって、歴代興行収入を塗り替えるまでのヒットにつながっていると思います。
ーーでは「ながら見」ではなく、ユーザーをコンテンツに集中させるためには何が必要でしょうか。
白武:そのコンテンツを作っている人や出演している人に対する“信頼"が必要だと思います。例えば僕はAmazonプライムの『ドキュメンタル』は、ながら見できないと思ってて。それは松本人志さんが主催者であり、そこに「面白い」という圧倒的な“信頼"があります。片手間ではなく、じっくり、一生懸命見ようと思いますね。
あとはさっきも言いましたけど、Netflixによくある「ビンジウォッチング」(一気見)を取り入れることです。長時間かけて一気に見られることは、見逃し配信で1週間おきに見れたり見れなかったりが発生するより、ながら見は防げると思います。その点ではYouTubeもアーカイブが残り続けるのでビンジウォッチングには向いていますね。
ーーやはりYouTubeの「アーカイブ性」は強いということですね。最後に『PILOT』のこれからの展望をお聞かせください。
白武:今後『PILOT』ではライブがやりたいですね。公開収録やYouTubeの生配信を劇場でやったり。またはこの間実現したことでもあるんですが『PILOT』制作のラジオ番組を引き続き地上波放送していくことも考えられます。今は「つくりかたをつくっている」という状態で、YouTubeのラジオ番組が違う形に変容していく方法を見つけられたら楽しいなと。なのでプラットフォームを選ばずとも、リスナーが聴きたいと思えるような番組をつくっていきたいです。ゆくゆくは、音声コンテンツ制作チームとして名前があがるような存在になりたいと思っています。