Spotifyの年間ランキングにみる「ラテン勢の躍進」と「トレンドが生まれる場所の変化」
音楽ストリーミングサービスのSpotifyが、2020年の音楽シーンを振り返るランキングを発表した(集計期間は2020年1月1日~11月27日)。
本稿では、その結果について解説していきたい。
2020年 Spotifyグローバルランキング
世界で最も再生されたアーティスト
1.バッド・バニー
2.ドレイク
3.J.バルヴィン
4.Juice WRLD
5.ザ・ウィークエンド
Playlist: Top Artists of 2020(global)
世界で最も再生されたアルバム
1.YHLQMDLG/バッド・バニー
2.After Hours/ザ・ウィークエンド
3.Hollywood's Bleeding/ポスト・マローン
4.Fine Line/ハリー・スタイルズ
5.Future Nostalgia/デュア・リパ
まず「世界で最も再生されたアーティスト」の1位は、83億回以上の再生を記録したプエルトリコ出身のラッパー、バッド・バニー。今年2月にリリースされたセカンドアルバム『YHLQMDLG』は 33億再生を記録し「世界で最も再生されたアルバム」でも1位と、2冠を達成。2位以下はドレイク、J.バルヴィン、Juice WRLD、ザ・ウィークエンドという結果となった。
日本の音楽ファンは「バッド・バニーが1位!」と言われても、ピンとこない人のほうが多いんじゃないかと思う。それでも、ここ数年ずっと続いているラテン・ミュージックのグローバルな盛り上がりを踏まえて考えれば、納得の結果だ。
ターニングポイントになったのは2017年。ルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキーの「デスパシート」やJ.バルヴィンの「ミ・ヘンテ」などグローバルなメガヒットが相次ぎ、レゲトン/ラテン・トラップのブームが一躍沸き立つ中で、次世代のシーンの担い手として頭角を表したのがバッド・バニーだった。
そして、それは一過性ブームには終わらなかった。カーディ・Bやドレイクなど大物とのコラボも相次ぎ、バッド・バニーは2018年の「世界で最も再生されたアーティスト」ランキングで8位、2019年は5位と徐々に順位をあげてきている。
2020年2月に行われたスーパーボウルのハーフタイムショーではシャキーラ&ジェニファー・ロペスが共演し、そこにバッド・バニーとJ.バルヴィンはゲストとして登場している。その華やかなステージは、(パンデミックによって世界が一変してしまう前の)アメリカのエンターテインメントの中心にラテン音楽があることの象徴でもあった。
ラテンアメリカ(中南米)の音楽市場がストリーミングサービスの定着と共に大きく成長していること、そしてアメリカにおいてもヒスパニックやラテン系の人口が増加していることなど、要因はいくつもあるが、この傾向はしばらく続くだろう。
バッド・バニーは12月に3枚目のスタジオ・アルバム『El Último Tour Del Mundo』をリリースし、彼自身、そして全スペイン語の作品として史上初の全米1位を獲得している。アヌエルAA、マルーマ、ファルッコなども含め、レゲトン/ラテン・トラップの躍進は来年も続きそうだ。
世界で最も再生された楽曲
1.Blinding Lights/ザ・ウィークエンド
2.Dance Monkey/トーンズ・アンド・アイ
3.The Box/Roddy Ricch
4.Roses - Imanbek Remix/Imanbek and SAINt JHN
5.Don't Start Now/デュア・リパ
Top Tracks of 2020(global)
一方、「世界で最も再生された楽曲」のチャートとなると、並びの様子は変わってくる。ここから見えてくるのは、ジャンルやテイストというよりもTikTokの影響力の強さだ。昨年のリル・ナズ・X「オールド・タウン・ロード」のような爆発はないものの、「Blinding Lights」は曲に合わせてエアロビを踊るダンスが「#BlindingLightsChallenge」としてミーム化したし、ロディ・リッチの「The Box」もTikTokで使われたことが曲の勢いを押し上げた。TOP5以下にもPowfuの「death bed (coffee for your head)」や、ドレイクの「Tooosie Slide」、ドージャ・キャットの「Say so」などTikTokが寄与したバイラルヒットは多い。
2020年はライブエンターテイメントがシャットダウンになったこと、それぞれが家で過ごす時間が増えたこともあって、オンラインカルチャーの影響力が増した一年だった。一方で、たとえば街頭の巨大広告みたいな資本を投じたプロモーションが効力を失うことになったし、「バーやナイトクラブでずっとかかってる曲」みたいな流行り方も減った一年だった。つまり街の往来からトレンドが生まれづらくなった。そのことも、TikTokの影響力の増大に寄与したのかもしれない。