ノトーリアス・B.I.G.からTravis Scottまで 脈々と続く「ラッパーとビデオゲームの歴史」
2020年11月は世界中のゲーマーにとって記念すべき月となった。次世代ゲーム機となる、Microsoftの『Xbox Series X | S』、Sonyの『Playstation 5』が遂に発売されたのである。筆者もPS5の抽選には残念ながら外れ続けているものの、Xbox Series Xについては無事に発売日に確保し、『アサシンクリード ヴァルハラ』などのタイトルを楽しんでいる。
このお祭をさらに盛り上げているのが、一見するとゲームからは距離のありそうなミュージシャン、特にラッパーだ。特に大きな話題となったのは、10月29日に発表になった「Travis ScottがPlayStation®ファミリーの戦略的クリエイティブパートナーに就任」というニュースだろう(参考 : https://blog.ja.playstation.com/2020/10/29/20201029-travisscott/ )。彼は早速、PS5のリリースの翌日となる11月13日に「A Travis Scott + Cactus Jack Experience - PS5: Unboxing Reimagined」という動画を公開し、本人のみならず親交の深いJames BlakeのパフォーマンスやNikeとのコラボレーションによる新たなスニーカー(片仮名の「プレイステーション」が効いたデザインだ)をお披露目しながら、PS5が実現する新たなエンターテインメントの世界をTravisのスタイルで表現している。
XboxにおいてもプロモーションにSnoop Doggが協力しており、日本でも話題となった「Xbox Series X型冷蔵庫」にふれる彼の映像が公開されている。インターネット・ミームを具現化したこの冷蔵庫、あくまでプロモーション用に制作されたもので、世界に3台しか存在しないのだが、うち1個は彼の自宅にプレゼントされたことでも話題となっていた。
また、次世代機を通してリリースされる作品についても、ラッパーの名前を見る機会が多い。10月25日にリリースされた『ウォッチドッグス レギオン』にはUKを代表するラッパーであるStormzyが実際にゲーム中に登場し、彼の新曲である『Rainfall』のPVを世界中に届けるためのミッションに参加することになる。(恐らく)12月19日にリリースされる『サイバーパンク2077』には人気ヒップホップ・デュオのRun the Jewelsがコラボレーション楽曲を提供しており、こちらも先日、同作の世界観を強く反映したミュージック・ビデオがリリースされたばかりだ。彼らも本作品に架空のアーティスト、"Yankee and the Brave"として出演しているようだ。
しかし、このようなラッパーとビデオゲームの繋がりというのは、決してトレンドに乗じたわけでも、突然変異的に発生したわけでもない。ヒップホップとビデオゲームには長い共鳴の歴史があり、その最新地点が今であるというだけである。本稿では、そんな2つのカルチャーのクロスオーヴァーについて簡単に振り返りながら、そこにある背景について探っていきたいと思う。
一つの"ルーツ"としてのビデオゲーム
1994年、偉大なるラッパーの一人であるノトーリアス・B.I.G.が、昔の自分を振り返りながら成功した自分の姿を称える「Juicy」という楽曲にはこのようなラインがある。
〈SNES、SEGA GENESIS / 死にそうなくらい金が無かった時の自分には、想像もつかなかったよ。("Super Nintendo, Sega Genesis / When I was dead broke, man, I couldn't picture this.")〉
今になってリリックを読んでみると、運転手付きのリムジンやクイーンズの高級マンションといった分かりやすいアイコンと並列でこの2台のゲーム機の名前が出ることに若干の違和感を感じるが、1994年といえばアメリカでは任天堂のSNES(日本のスーパーファミコン)とセガのGENESIS(日本のメガドライブ)がゲーム機戦争を繰り広げていた頃であり、多くの人々はこのどちらかを所有し、どちらが優れているかをしばしば争っていた時期である。つまり、この2台を"両方"所有しているということはある種の"富の象徴"というわけだ。
このように、90年代前半、当時絶大な人気を誇っていた任天堂とセガの家庭用ゲーム機、そしてカプコンの『ストリートファイター2』やミッドウェイ・ゲームスの『モータルコンバット』を筆頭としたアーケードゲームは、ある種の90年代を象徴するアイコンとして、ラップのリリックに頻繁に登場するようになる。その背景には、単にこれらが人気であったというだけではなく、EA Sportsによる『NBA Live』シリーズや『Madden NFL』シリーズといった、バスケットボールやアメリカン・フットボールといったスポーツ・ゲームが充実していったことも要因として上げられるだろう。ストリート・カルチャーの要素を内包したり、人気のスポーツを再現することができたりと、当時のビデオゲームは、ヒップホップと同様に"クール"なカルチャーであり、だからこそ、その影響がリリックへと反映されていったのである(Jay-Zに至っては、『NBA 2K13』においてサウンドトラック監修まで行っている)。
また、ゲーム音楽はサンプリングの対象としても注目を浴びる。1998年にリリースされたJAY-Z feat. DMX、Swizz Beatzプロデュースの「Money, Cash, Hoes」では、1989年発売の『ゴールデンアックス』のBGMがサンプリングされており、以降もゲーム音楽は現代に至るまで様々な楽曲で使用されており、Drakeが「6 God」(2014年)で『スーパードンキーコング2』(1995年)のBGMを使ったり、Kanye Westが「Father Stretch My Hands Pt. II」と「FACTS」(共に2016年)で『ストリートファイター2』(1991年)の音声を使ったり、更にはLil Uzi Vertが「You Better Move」(2020年)でWindows 95の拡張パックからWindows XPまで同梱されていた『Windows 3Dピンボール』の効果音を使ったりと、非常に幅広く活用されている。この背景には、「ちょっと変わった音ネタ」的な使い方というだけではなく、ある種のノスタルジアを喚起するような側面もあるだろう。『スーパーマリオブラザーズ』のBGMが一つのアイコンとなっているように、90年代のビデオゲームは、当時の映画や音楽と同じように一つの象徴として人々の記憶に刻まれており、だからこそラップのリリックやトラックにおいてもある種の"ルーツ"として頻繁に引用されるようになったのではないだろうか。
- ゴールデンアックス
- Xbox Series X
- Travis Scott
- サイバーパンク2077
- ウォッチドッグス レギオン
- スーパーマリオブラザーズ
- Xbox Series S
- Stormzy
- ストリートファイター2
- ノイ村
- Windows 3Dピンボール
- Wu-Tang: Shaolin Style
- Def Jam Vendetta
- Grand Theft Auto
- G Herb
- Metro Boomin
- Future
- Chance The Rapper
- Kanye West
- Fortnite
- スーパードンキーコング2
- Drake
- ノトーリアス・B.I.G
- Def Jam
- Snoop Dogg
- JAY-Z
- Wu-Tang Clan
- Juice WRLD
- Lil Uzi Vert
- Run The Jewels
- PlayStation 5