サカナクション“最高峰のオンラインライブ”の裏側ーー田中裕介に聞く「ライブミュージックビデオ」の演出法

オンラインライブは映像クリエイター×ミュージシャンの実験場になる?

――また、全体としてほとんど無駄な間がなかったのも印象に残っていました。曲間やセットチェンジの間って、生のライブにおいては体験の一環として楽しめると思うんですけど、配信だとその間が発生してしまうことで、意識が逸れてしまいがちじゃないですか。

田中:元になってるホールツアーから、曲間の間をなくすというコンセプトでセットリストを作っていたので、それが良い効果になったと思っています。普段のライブでは、曲が終わったら暗転して、真っ暗になるから見ているお客さんもリセットされるんですけど、お茶の間だとなんのリセットにもならず、謎の黒画面を長時間見せることになっちゃう。ちょうどその曲間を音で繋いでくれてるセットリストだったというのは有利でしたし、楽器の持ち替えとかも積極的に見せちゃおうと思って、真っ暗にはしませんでした。 

――お客さんがいないからこそできるという点では、カメラ機材やセッティングもかなり重要なポイントだと思います。

田中:大きな引き絵はお客さんがいないので今回は必要なかったということもあり、カメラの台数は普段のライブ収録の方が全然多いんです。だからこそ、良いカメラで撮りたくて、映画やミュージックビデオを撮影するレベルのカメラで撮りたいと思い、あえてレンズも古いものにしました。

――ちなみにどういうカメラを使ったんですか。

田中:SONYのVENICEですね。俗に言うシネカメラで、VENICEは生配信に有利だと言われていたので、この機材を使うことにしました。

――あと、「陽炎」で別セットを使ったにもかかわらず、以降は一切登場しなかったり、一回だけの演出が多かったことがすごく面白いとも思ったんです。

田中:ライブ全体の演出を考えるのではなく、曲ごとに考えていったことが大きいのかもしれません。1曲ごとに別のミュージックビデオを作ることを意識したからこそ、おのずと曲ごとにコロコロ演出が変わっていったんだと思います。 

――田中さん自身、この自粛期間中に行われているほかのオンラインライブを、どのように見ていたんでしょうか。

田中:オンラインライブには色んな捉え方があって、正解はいくつもあるのかなと。事前に収録してめちゃくちゃ作りこんで完成度を上げるパターンもあると思います。ただ、僕の中ではそれをライブと言われると少し違和感があって。アーティストのエモーションがグイグイ伝わってくるわけではないというか。最終的には、ライブ会場に行ったときに受ける熱量をいかにオンラインで見てる人に届けることができるか、というところが重要なんだなと思って。その熱量を伝えるための演出や世界観があるのかな、と考えました。

――今回のライブを経て、オンラインライブ全体はどういう風に変わっていくと思いますか?

田中:僕は映像をやってる人間だからなのかもしれませんが、オンラインライブって、つまり映像で見るライブなので、映像的なアプローチとか、映像的な知識を持った人が演出するのもアリなのかな、と思いました。ライブが今後再開されるとして、それでもオンラインライブがこの2020年以降も面白いものとして続いていくのではないかと考えたときに、映像クリエイターとミュージシャンがタッグを組んで実験的なことをやっていくことが、表現として面白いものになっていくんじゃないのかな、という気がしています。

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