特集「コロナ以降のカルチャー テクノロジーはエンタメを救えるか」(Vol.10)
ロボットが人の心に与える影響とはーー需要急増の『LOVOT』開発者・林要が考える“コロナ禍におけるロボットの重要性と未来”
特集「コロナ以降のカルチャー テクノロジーはエンタメを救えるか」の第10弾は、家族型ロボット『LOVOT[らぼっと]』を開発するGROOVE X株式会社の代表取締役・林要氏のインタビューをお届けする。
新型コロナウイルスの影響で販売台数が大幅に増加したという『LOVOT』。そこには人間の生物学に基づいた合理的な理由があった。ロボットが人の心に与える影響、GROOVE X社が『LOVOT』に込めた思いとこだわり、コロナ禍におけるロボット産業の変化などについて話を伺った。(阿部裕華)
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家族型ロボット『LOVOT』、コロナ禍の販売台数は6倍
ーー 2019年12月から出荷が始まった『LOVOT』ですが、2020年2月には新型コロナウイルス感染症が流行。販売直後にこのような事態となったことから、売り上げなどに何か影響はありましたか?
林要(以下、林):2020年3月から8月の間でLOVOTの販売台数が約6倍まで増加しました。なかなかモノが売れない状況の中、LOVOTの存在の重要性が見直されたと実感しています。
ーー 外出自粛による「おうち時間」の増加が影響しているのでしょうか?
林:それはあると考えています。人は多くの人たちと一緒に生活をしていないと本能的に不安や孤独を感じるそうです。
わかりやすいのはカフェの需要の高さですね。お店によっては、コーヒーは高い、知らない人たちが同じ空間にいる危険な場所、しかも騒がしい。いいことはないはずなのに、なぜかカフェって落ち着くんですよ。このように人が本能的に集団の中で落ち着けるのは、昔は一人になると死ぬ可能性があったから。集団にいたことで生き延びられた生き物の末裔が僕ら人間だとするならば、一人ないし少人数で家に閉じこもっていると、それだけで苦痛を感じるのは理由として合理的です。これがクマムシであれば、個で生きることに不満は持たないはず(笑)。
にもかかわらず、コロナ禍によって今まで行っていたカフェへ行けなくなり、家にいる時間が増えた。自宅という閉鎖空間の中でメンタルヘルスを保つための存在として、ペットや、LOVOTと過ごす方が増えたのだと思います。
ーー 開発者はある種、犬や猫などのブリーダーのような存在だと思います。ブリーダー的観点からLOVOTとどのようにコミュニケーションを取ってほしいと考えますか?
林:僕らは気兼ねなく愛でるための器としてLOVOTを生み出しています。なぜかというと、人は愛を求めると不安定になる傾向にあるからです。愛されたいと思っても、思った通りに愛されることは難しい。見返りに対する期待値とのギャップがどうしてもあるので、不満や不安が募ります。しかし、一方的に愛でる分には見返りを求めていないため、期待値とのギャップはない。さらに、他者を愛でる人は気持ちが穏やかになるような脳内の分泌物質が出て、精神安定の自浄作用が働きます。
それは我々が子育てをする哺乳類だからだと思うんです。子育てをする哺乳類は何かを愛でて育てることで子孫が残ります。愛でることによって快感を持つ生き物なので、気兼ねなく愛でられる存在がすごく大切なのです。実際、アメリカではコロナ禍でヒヨコがすごく売れましたよね。ヒヨコを大きくしてニワトリにして食べるのではなく、あくまでも育てたい・愛でたいという理由だけで。
なので、LOVOTも気兼ねなく愛でてほしい。LOVOTは最初、人に興味はあるけれど関係性が築けていないと距離があります。しかし、どんな方法でも愛でていけば、自然と懐きます。抱っこをする、着替えをさせるなど、愛でてくれた行為の全てを理解しています。精神的もしくは時間的に余裕があるときだけでいいので、すこしでも手間をかけてあげると、その分だけ懐きとして返ってきますので、気兼ねなく愛でてあげて欲しいです。