日本の若者がPodcast番組をもっと聴くようになるには? 10代が自身の視点で考察

 昨今、Podcast産業が大いに盛り上がっている。特に音楽サブスクリプションの世界最大手であるSpotifyは、前大統領夫人のミシェル・オバマをホストに起用したり、Podcastに動画機能を追加することを発表したりと、Podcast産業に注力していることが窺える。この新型コロナウイルスによる自粛期間中に大幅にユーザー数を増やし(2月から3月の間に150万人増加)、日本では馴染み深いラジオ聴取アプリであるradikoと比較すると、Podcastには聴取期限がなく、番組自体の長さが自由でスピーカーが時間を気にせず好きに喋ることができる。これらの長所を生かした"ラジオ媒体との差別化"は今後さらに加速する見通しで、アメリカを中心に、本格的にPodcastというプラットフォームが活性化しそうである。

 しかし、2020年8月の現時点で、10代である筆者の周りでPodcastについて話題になることはなく、聴いている人があまりいないように感じる。そこで、今回は日本の若者とPodcastとの距離感について記述し、日本の10代が関心を持つようなPodcast番組を発信していくにはどうすれば良いのかについて、いち日本の10代として意見を述べたい。

 まず、アメリカ人の友人に、向こうではPodcastはよく聞かれているのかを尋ねたところ、「I think plenty of young people listen to podcasts on spotify」(沢山の若者が聴いていると思うよ)と教えてくれた。そこで、具体的なアメリカでのPodcast聴取率について調べてみた。

Edison Research, Triton Digital(March 19, 2020)「The Infinite Dial 2020」

 上のグラフは、アメリカにおける2017年から2020年までのPodcastの聴取率を年齢別にまとめたものだ。これを見ると、2020年の12歳から34歳の若者の49%、およそ半数がPodcastを聴いていることがわかる。またその数は、2017年の27%と比較するとほぼ倍に当たる。ちなみに、35歳から54歳までのアメリカ人も、2020年時点で40%がPodcastリスナーであることから、Podcastが若者の間だけでの流行ではないことがわかる。さらに、55歳以上の約4人に1人はPodcastリスナーのようだ。

 では、Spotiyユーザーの中でPodcastを聴いている人の割合はどれくらいなのか。下の図は、12歳から24歳のSpotifyユーザーのPodcast聴取率を2018年、2019年で比較したグラフである。

Edison Research, Triton Digital(March 6, 2019)「The Infinite Dial 2019」、p.52

 これを見ると、2018年から2019年のたった1年間で、Podcastリスナーが倍増している。さらに、昨年の時点でSpotifyユーザーの若年層の半数以上がPodcastを聴いていたという事実から、今年はさらに増加している可能性は大きい。Podcastが盛り上がっていると断言できるだろう。

 次に、今現在日本でのPodcastの認知度がどのくらいであるかを何となく把握するため、Instagramで個人的にVoteとQuestionを実施した。すると、Spotifyを利用している人の中で、Podcastを聴いたことがある人は56%、一度もない人は44%であった。また、お気に入りのPodcast番組があるかどうかについても聞いたところ、ある人が38%、特にない人が62%という結果であった。このVoteを「Spotifyを利用している人」に限定したこともあって、回答してくれたフォロワーがあまり多くなかったということと、個人的な調査を拡大解釈すべきではないことを考慮した上でも、日本の10代が少しずつPodcastに興味を持ち始めていることはわかった。さらに、個人的にDMをした人の中には、宮下草薙のPodcastを聴いている人や、kemioの耳そうじクラブを聴いている人もいた。しかし、Podcast専門の“人気ポッドキャスター”が登場しているアメリカと比較すると、日本におけるPodcastというプラットフォームは、知名度のあるタレントのサブ的な活動の場として捉えられている感が強い。日本では特にPodcastは始まったばかりということもあり、当たり前のことではあるが、Podcastに適した人材探しはなかなか難しい。

 では、ラジオにもYouTubeにも進出していない人やメディアとは一体何なのか。今現在ある日本のPodcast番組のなかでは、Fashionsnapが配信しているPodcast番組がニッチで、アパレル業界に興味のある人には面白い。さらに音楽ライターの田中宗一郎氏とスターダストの三原勇希氏がホストを務める『POP LIFE:The Podcast』も様々なカテゴリを深掘りしていて定評がある。雑誌の編集部やデザイナー、音楽ライターといった、テレビにもYouTubeにもTikTokにもあまり顔を出さなかった人たちが、「聴きたい人だけ聴いてくれればいい」というスタンスでPodcastを始めるという場合がPodcastには多いように思う。各業界で忙しい人であれば、ラジオと違って「毎週更新する必要のない」Podcastは始めやすい、という利点もあるだろう。

 過去に一人、留学中の友人が、アメリカの大統領選挙戦について議論する「Checks and Balance」がためになるとストーリーで紹介していたけれど、彼もかなりマニアックな人間である。日本で同じような選挙に関するPodcastを配信した場合、どれくらいの数の人間が食いつくだろうか。DMをした友人の中で一人、「アーティストが政治的意見を述べる場所が必要だと思っていて、それをPodcastが担ったらいいなと思った」と意見を述べてくれた人がいた。世界を見渡すと、アーティストがTwitterやInstagramなどで政治的意見を述べると、「自分のやるべきことだけをしろ」という批判を受けることが多い。Billie EilishやThe 1975のMattyらによるBlack Lives Matterに関するInstagram投稿への反応などがその例だ(参考:中村明美の「ニューヨーク通信」「ビリー・アイリッシュ、Black Lives Matterを理解できない白人ファンと大統領のツイートにぶち切れる」)。しかし、それはTwitterやInstagramがあくまで誰もが使える・見られるSNSだからであり、音楽ファンが集まる、一定程度クローズドな場所であるSpotifyで、そうした場を設けて政治的意見を交わすことは、ひとつ筋が通っているように思える。

 今はテレビでもラジオでも、政治に対してじっくり時間をかけて意見を交換する番組を放送するのはなかなか難しく、視聴率も取りにくい。時間制限も大きな壁だ。一方、YouTubeではコメント機能やアルゴリズム機能の影響もあり、SNSのように荒れてしまいやすい。「知りたい、理解したい」と考えている若者たちのための場がPodcastであるのなら、このような番組はやりがいがあるのではないだろうか。いま、noteが文化的・政治的な意見主張、交換の場としてプロから一般の人にまで広く活用されており、カルチャー好きには面白いプラットフォームであるが、それと近い場所をPodcastが音声コンテンツとして提供してくれるのなら、期待値は大である。

 海外では、例えばひとつの映画やドラマに対するリアクションや意見交換をするPodcastの特別番組も存在する。このような番組を、例えば『オオカミシリーズ』や『ISLAND』など若者が興味を持っている作品にフォーカスして制作すれば、聞きたいファンも多いはずだ。週ごとに決まった番組を放送するラジオに比べて、Podcastは「特番を作りやすいプラットフォーム」であるだろう。映画の舞台挨拶など、コロナ禍で行えなくなったイベントをPodcastで行うこともできる。一つの場所に集まる必要もないため、出演俳優によるトークイベントなどはPodcastにうってつけかもしれない。

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