【ネタバレあり】『The Last of Us Part 2』の“炎上”から考える、ポリティカル・コレクトネスに向き合うということ

『ラスアス2』を巡る“ポリコレ”議論

現代におけるポリティカル・コレクトネスの複雑さ

 本作のトレーラーなどで登場していた、エリーとディーナがパーティーの中でキスをするシーン。この二人の関係性が深まるきっかけとなる出来事として、物語中に何度か語られるものの、実際にカットシーンとして登場するのは物語の最終盤である。このシーン、キスの場面まではロマンティックだが、直後にセスというキャラクターから"dyke"というスラング(男性的な振る舞いをしようとする同性愛者の女性に対する呼称。軽蔑のニュアンスが含まれる)を含む明確に差別的な言動が発せられる。この発言にエリーが激怒するのだが、現場に居合わせたジョエルがそれ以上に激怒し、セスに立ち向かう。一触即発となる中、周りにいる人々によって止められるものの、エリーは助けてくれたジョエルに対して「助けてくれなんて言っていない」と怒る。前提としてこの時点でのエリーとジョエルの関係性が険悪というのがあるのだが、このシーンでは「この世界でも差別が存在する」ことと、「理解されることへの抵抗感」が描かれている。ゲームの冒頭ではセスがこの出来事を謝るシーンがあるのだが、改めて見返すと、彼はあくまで周りから怒られ、仕方なく謝っているだけのように見える。

 アビーの屈強な肉体は、前述の通りジョエルへの復讐心が生んだものだ。しかし、事前にカットシーンが現実の世界で誤解を招いたように、本作のNPCからもアビーは「男みたいな体」、「ゴツい体つきの女」と呼ばれている。そして、この特徴はエリーがアビーを追いかける上での手がかりにもなっている。それはつまり、本作のプレイヤーにとっても同様であるということだ。筆者のように本作に肯定的なプレイヤーだろうと、無意識のうちに、アビーをその屈強な肉体で判別しているのである。

 また、前述したレブは、本作に登場するカルト教団、セラファイトの若者として登場するのだが、「兵士として生きたいのにも関わらず、嫁ぐことを強制される」、「自らの女性性に違和感を抱く」ことが理由で、自らの名前を生まれ持った「リリー」ではなく「レブ」と名乗り、髪を丸刈りにする。この行動がセラファイトの怒りを買い、レブは脱走を余儀なくされる。その後、偶然出会ったアビー、そして付き添ってくれた姉のヤーラと共に行動をすることになる。

 レブの立場からすれば、保守的なセラファイトを見限ってもおかしくはないし、その方が物語の構造としてもシンプルである。だが、レブはセラファイト自体を否定することはなく、共に行動するアビーが疑問を抱くほどに、自らを追放した宗教に対して極めて敬虔な信者であり続ける。また、一人残してきてしまった母親を心配し、「話せば分かってくれるはず」という想いを胸に、せっかく脱出したのにも関わらず、単独でセラファイトの拠点まで戻ってしまう。そしてその行動が最悪の結末を生むことになる。

 レブの物語は「信仰」の持つ複雑さ、そして性に対する理解の厳しさを描いている。そもそも、ポリティカル・コレクトネスを取り入れた作品は、最終的には対象に対するエンパワメントになることが多い。しかし、レブの物語は「ここまでやる必要があるのか?」という程に悲惨だ。また、筆者はこのレブが母親の元に帰るシーンを見た時に「楽観的すぎる」と感じてしまったのだが、それは現実に対して向ける目線と同義だ。無意識のうちに「気持ちは分からなくもないけど、分かってもらうのは難しいだろう」と思っている。そしてこれはあくまで前述の通り筆者が"そうではないから"抱く感情であり、その時点でバイアスが働いている。

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