高齢者の孤立問題解決にゲームが有効? アメリカで実証実験開始へ
ただ、高齢者が最新テクノロジーの恩恵を受けることに好意的かどうか、ということになると別問題だ。ペンシルベニア州高齢者福祉課が実施した調査によると、「機会があれば、積極的にバーチャルなテクノロジーを利用したい」と回答したのは調査回答者全体の4分の1にとどまっており、バーチャルなテクノロジーの活用へ消極的な大半の高齢者に対して、どう働きかけるかが課題として浮上する。
バーチャルなテクノロジーで社会的孤立を解決する、という試み自体は真新しいことではない。テクノロジーを介した数々のイノベーションを発信しているAARPはすでに、高齢者の社会的孤立を解消するVRプラットフォーム「Alcove」を開発している。さらに、MIT発のスタートアップ「Rendever」でも、高齢者の社会的関与を促すことで認知能力の向上を狙った同様のVRプラットフォームを開発済みであり、現在実証実験を進めている最中だ。
ゲームをめぐっては、ゲーム障害が世界保健機関(WHO)により精神疾患として正式に認定されるなど、若年者の心身にもたらす弊害が取り沙汰されている。その一方で、一部の高齢者福祉の現場では、逆に高齢者の心身機能にプラスに働くとして積極的に導入されている。一言にゲームといっても、単に娯楽として堪能するものに限らず、手話や外国語学習のように特定の知識を増やしたりと啓蒙や学習を目的としたもの、病気の予防や治療向けのものも含まれ様々である。例えば、独企業が提供する「Sea Hero Quest」はアルツハイマー病の診断に有用であるとして科学誌にも紹介されている。
インドの市場調査会社によると、今後、eスポーツ市場は18.4パーセントの年平均成長率で拡大し続け、2029年には58億米ドル(約6100億円)規模に達するともいわれている(参考:https://www.globenewswire.com/news-release/2020/06/09/2045763/0/en/Global-Electronic-Sports-e-Sports-Market-is-estimated-to-be-5-8-Billion-by-2029-and-is-anticipated-to-register-a-CAGR-of-18-4-majorly-driven-by-education-sector-and-popularity-of-e.html)。
ゲームというと、どうしてもゲーム障害や引きこもりといった負の側面と結びつけがちであるが、負の側面を打ち消す競技性のあるゲームが台頭するにあたり、エンターテイメント業界のみならず、様々な業界においてeスポーツやゲーミングが強い影響力を持ち得ることになるのは確かだろう。
■大澤法子
翻訳者、ライター。AI、eスポーツ、シビックテックを中心に動向を追っている。