でんぱ組.inc配信ライブで魅せた、空間演出ユニット・huezの力 「変わりゆく世界における、ライブ演出の行方」

でんぱ組、配信ライブ演出の裏側

 世界全土で始まった「縛りプレイ」を楽しめる演出に

ーー配信ライブにおける今後の課題をどのように考えていますか。

としくに:緊急事態宣言が解除されて、スタジオに限らずライブハウスでの配信ライブもますます増えるはずですが、課題は、「円盤化したものと同じようにならないこと」だと思っています。配信ライブをするときにひとつ僕が決めている演出があって、それは「客席が空っぽであることを、お客さんに感じさせない」ことなんです。ただ空の客席を映しても、「いま、俺たちがそこに居ないんであれば客席は空である」ってことをお客さんは百も承知なので、それはただただ悲しい事実なんですよ。もちろんメンバーが「いつか会いたいね」って伝えるのは良いんですけど、それを「客席空っぽだね」って映像で伝えてしまうのは絶対にやりたくない。

 それを前提に組み立てつつ、「生ライブの収録映像」にはならないように気をつけています。今回のでんぱ組さんだったら、スタジオでそれぞれが別の部屋に入って歌っていたわけですが、これって棒立ちでバストアップだけ取れれば同じ画角がライブハウスでも取れるんですよ。これはこれでひとつの演出になる。そういう意味では、「ライブハウス配信だから出来ること」を狙っていかなければならない。それは客席に出て行くでもいいし、ドアップでメンバーが動かない、みたいなライブもできる。今までやっていた生ライブと同じことをやらない、やらせない。全然違うものなんだと思ってやることかなと。

ーー生ライブの劣化版になってしまうのは避けたい、ということですね。

としくに:配信ライブって、どうしても生ライブの劣化版だと思われちゃう瞬間が多々あるんですけど、でも実は劣化版じゃないんですよ。配信には配信のいいところがある。僕からするとテレビが生まれた瞬間って今と同じことが起きているはずなんです。テレビ以前にはラジオしかなくて、声を聴くか、生でステージを見に行くことしかできなかったのに、「画面」っていう概念が生まれて、ドラマや映画が始まって。それまで演劇しかなかったのに、それが映画に変わって、ステージが画面に変わったらカメラワークやスイッチングによる編集が生まれた。その分制限も出てきたと思いますけど。

 今後コロナが収束しても、配信ライブはなくならないと思っています。例えば今後、ワンマンライブを配信ライブと並行してやる選択肢もあって、そこでは生のライブと全く違うものが見られるようになるかもしれない。最終的にはどっちも見たいと思わせるような構造で作りたいし、そういう演出プランを組めるようになれば面白い。そういう意味では、僕は世界が配信ライブをやる方向にばっと走った、この状況自体はポジティブに捉えています。

YAVAO:お客さんは生のライブに対してお金を払っているんじゃなくて、「良さ」に対してお金を払ってるんだよな、とは思っていて。言葉のさじ加減はあると思うんですけど、演者自身の物語が一番のコンテンツなんだ、それはライブでも配信でも形が変わっただけで、「コンテンツを演出してより良い形で届ける」っていう自分の仕事は変わらないと思っています。ライブ配信ならではの形で演者の物語を届けることができれば、配信でもクオリティを担保出来るんだっていうのが、今回のでんぱ組さんのライブでわかりました。

としくに:今後5Gが始まると遅延も無くなるし、データ量も壮大になるのでできることがかなり膨らむだろうと思います。5Gならリアルタイムにできることもいっぱいありそうだなと。

 それこそ近距離通信が発展したおかげで、「会場にいる人のサイリウムが全員同じ色になる」みたいな演出も生まれたわけですし、それがもっと拡張していくのはあり得ます。遠い未来みたいな言い方になりますが、今後モノを運ぶ「流通」の概念が変わっていくと思うんです。宅配を頼んだ瞬間家に届くみたいな、そういう未来が来ると思っていて。それが実現するなら例えばライブ配信中にお客さんの家に何かが届いちゃうとか、いよいよ訳の分からない世界が来ると思うんですよね。ライブ前、家に「光る謎の球」が届いて、「配信ライブを見るときはこの球をWi-Fiにつないでおいてね」って書いてある。つないでおくと見ている映像の照明とその球がリンクしてビカビカに光る……みたいな。都内限定でもやれたらおもしろいなと思うんですよね。そういう「演出のハッキング」みたいなことが出来るようになるといい。

 huezの気持ちとしても、しばらくは人をたくさん集めるのが難しいわけだし、この機会に自分たちが今まで演出した生ライブに勝ってやろうと。「引きこもり増やしてやるぜ」みたいなノリでやってやろうかなと。でももちろん、生ライブが戻ってきたらすごい勢いになるとも思います。鬱憤を晴らすかのようにすごい量が始まってお祭りになると思うので、そこでも新しい見せ方を作っていきたいと思ってます。配信ライブは世界全土で始まった「縛りプレイ」です。僕はゲーム実況とかでも縛りプレイが好きなので、せっかくだから楽しんでやろうと思っています。

ーーテクノロジーの革新が面白い世界を見せてくれそうだ、という展望がある一方で、ファンはもちろん演者自身にもこの「生でライブができない」という状況下に対する鬱屈とした気持ち、わだかまりがあるように感じます。こういった気持ちとの向き合い方について、考えをお聞かせください。

YAVAO:演者のわだかまりを消すのは無理だと思います。そこはゲームのルールが変わったので、そこに合わせてやるしかない。このシーズンに対してのルール変更だから、こうするしかない。そのわだかまりすら逆に利用して、面白いものが作れたらいいな、と思います。

としくに:今回の生ライブができない状態って、「電気が通っていなければインターネットはできない」のと同じ領域だと思うんです。だから仕方がない。でも、わだかまりが少しでも解消されるようなものが今後生まれてくるとも思います。人間って「なんとしてでも楽しもうとする」んですよね。「どんな形でもいいから楽しんでやろう」みたいな精神性はそれは演者にもお客さんにも、エンタメ業界以外にもあるので、僕は嘆かないようにしています。それこそ今、TikTokとかラジオ番組の数がものすごいスピードで増えているっていうのは、その証拠だと思いますし、実際僕たちが取り組んだでんぱ組の配信ライブもそのひとつだと思っています。

 それに、生ライブができない間、失ってしまったものをちょっとでも担保できるような技術がどんどん開発されていくと思うし、逆にコロナを直撃で受けた多感な時期の若い人たちって、これを前提に生きていったりするんじゃないかと思うんですよね。そしたらそもそも生ライブなんてやらなくて良いじゃんっていうアーティストが出てくるかもしれない。僕はVTuberってその走りだと思っています。
もちろんコロナの影響はとても大きなものでしたが、楽しいことを作っていこうとしている人たちがたくさんいるという側面では、意外と絶望的じゃない。ありとあらゆる手段を使って楽しませようとしてくるので、「病まないように待っていれば、科学ってスゴいから大丈夫だよ」って思います。

YAMAGE:大変な状況だと思いますが、なんとかポジティブに捉えていくしかないのかなと。例えば配信ライブなら都心のファンも地方のファンも同じ条件で見られる。遠征できなくて困っていた人たちにとってはアーティストと関わる機会が増えていたりします。さっきとしくにも言っていたように、リアルライブが復活したとしても配信ライブが残る可能性はありますし、「軸が増えた」っていう見方ができますよね。リモートワークで無駄なことが見えた、という話があるように、「これってオンラインの方が良いじゃん」っていうこともあると思うんで。新しい面が見えたのは良いことですね。

■としくに
ステージディレクター・演出家。渋都市株式会社代表取締役市長。演劇領域での舞台監督や、メディアパフォーマンスの「インターネットおじさん」などの活動を経て、2016年に渋都市株式会社を設立し、代表取締役に就任。「笑い」と「ホラー」をテーマとして、既存の枠組みを越えた映像・空間演出のディレクションを手掛ける。

■ YAVAO / 小池将樹
VJ・LJ・ステージエンジニア。「身体的感覚の混乱」をキーワードに、デジタルデバイスやゲームシステムの企画・制作をおこなう。2011年にhuezを立ち上げた人物でもあり、現在は、huezのライブ演出の中心人物として、レーザーやLEDなどの特殊照明のプランニングおよびエンジニアリングを担当している。

■YAMAGE
テクニカルディレクター・オペレーター。2015年よりアーティストユニット・huezおよび渋都市株式会社に所属し、レーザーデザインおよびオペレーションを主軸に活動。「目に見える音」を表現し楽曲の世界観を拡張したレーザープログラミングと精密なオペレーションを得意とする。

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