特集「コロナ以降のカルチャー テクノロジーはエンタメを救えるか」(Vol.2)

『TikTok』GM・佐藤陽一に聞く「コロナ禍でショート動画コンテンツがユーザーに与えた影響」

ファンとのエンゲージメントを強める、ツールとしての動画コンテンツ

ーーエンタメ業界の方は、TikTokを若年層にリーチするためのプラットフォームとして見ている方が多いと思うのですが、その印象についてはどのようにお考えですか?

佐藤:このような状況もあってのことだと思うのですが、ファンの方にいかにして楽しんでもらえるか、つながりを維持できるかという所に対する危機意識のある音楽業界やアーティストの方から注目いただいたと思います。同時にTikTok発のアーティストの例が出てきてたタイミングとうまく合致したこともあり、新規へのリーチや新しいことに挑戦する時に選んでもらえるプラットフォームでいられたことの強みを感じました。

ーーもう少し広いテーマで、動画コンテンツ自体についても聞かせてください。中長期的に考えて、今回の新型コロナウルスは、動画プラットフォームという領域において、どのような影響を及ぼすと思いますか?

佐藤:動画系のコンテンツは、(メインストリームに)何かほかのものに付加価値をプラスするものという位置付けが多かったと思うのですが、このような状況以降は、オフラインとオンラインのサービスが不可分に一体化していくようなサービス設計に変わっていくのではないかと思います。例えば、オフラインで集まるライブと同時に配信が行われるようになるのではないか、といったような。

 前職で電子書籍を担当していた時に、オライリーという出版社がテクノロジーの技術書を目次レベルから作家が作っていく過程を読者に見せて、そのフィードバックを元にインタラクティブに本を作り上げていくトライアルを見たことがあったのですが、そうなると「自分が作っている過程に加わったこと」を踏まえて本を買ってくれたことがあって。そんな体験を踏まえて、アーティストの方が自分のクリエイションする過程そのものについて、動画やライブ配信を通じてファンやコミュニティとインタラクションしながら、作り上げていくことがあってもおかしくないのではと思います。

 いずれにせよ、オンラインとオフラインのサービスが不可分に一体化して設計されていく中で、作っていく過程の中で動画が活躍したり、ファンとのエンゲージメントを強めるツールとして、より重要になってくるでしょう。

ーーアーティストとファンがコミュニケーションを取るためのツールとして動画コンテンツは有効的なツールですが、“ながら聴き”のように、流しっぱなしで動画を視聴するユーザーにも変化が起こると思いますか?

佐藤:それに関しては、僕らにとっても難しいテーマです。世界的に見ると、日本は実際に動画を作ってアップロードしていただく方の割合が高い国ではありません。昔でいうROM(Read Only Member)といいますか、消費することがメインの人と、作り出す人との間のバーをどうやったら流動的かつ能動的に動かせるんだろう、というのはすごく大きな課題ですね。とはいえ、そのなかでもショートビデオという形式を取っているからこそ、そのバーを動かせる可能性は高いだろうと思っています。「これだったら自分もできるかも」とか、日本人特有の「顔出ししたくない」「プライバシーは出したくないけど何か面白いものを作りたい」という気持ちに入っていける切り口は大事なポイントで、僕らも日々頭を悩ませているところです。短期的には消費するだけの人と、作る人の割合は簡単には変わるとは思っていないのですが、少しずつクリエイションのきっかけになってくれるといいなという思いはあります。

ーークリエイションのきっかけの具体例とは、例えばどういうことが考えられるのでしょうか。

佐藤:ある人から言われて「ああ!」と思ったのは、「学校の体育の授業でダンスをやってきた人たちと、その経験がない人って違いますよね」という話でした。僕はダンスを授業で習っていなかったので、撮影してアップするという感覚がないですし、世代的には、ダンスの代わりにバンドをやりたいという感覚の世代です。 だからこそ、その感覚を世代に応じて、もしくはオーディエンスに応じて見つけなきゃいけないと感じていますね。

ーースマートフォン普及率も、そのきっかけに影響しそうですね。

佐藤:スマートフォン普及率もそうなんですけど、今回のインタビューのようにリモート会議通じて行うような環境になって初めて、「5Gが早く来ないかな」と思うようになりました。やや何百msの遅れがリズム感を損なう時があるじゃないですか。それが5Gで解消されると、よりオンラインでやりとりするという形式の需要も高まるんじゃないかと。

ーー5GになったらTikTokにはどういう影響があると予想されたりはしますか?

佐藤:5Gになると通信スピードや帯域の制限がほとんど無くなるのだとすれば、いろんなエフェクトやスタンプ、例えばARに近いことなど、面白いクリエイションをするためのツールが制限なく提供できるようになるだろうと思っています。

ーー最後に今後のTikTokの方向性について、聞かせてください。

佐藤:幸いなことに多くの方に使っていただけるアプリとして成長してきていますので、この成長を止めないように維持するというのが僕の第1の役割で、大事なポイントだと思っています。その上で、より多くの世代、多くの人に楽しんでもらえるプラットフォームに育てていくのが2番目です。これも今までやってきていることではあるのですが、その一環として、エンターテインメントという定義を広めに考えたいなと思っています。

 例えば、「Do It Yourself」といった分野のように、学びや、興味、趣味も言ってみればエンターテインメントのひとつであるだろうし、いま僕らが思いつかないようなものがあっても良いと思います。年齢層が上の方が自分で何か作り出そうと思った時に、ビデオは難しいけど写真だったらできることもあると思うんです。なので、静止画がもっと楽しめるサービス、もしくはスタンプ的なツール的があっても良いと思います。つまり「TikTokのエンターテインメントは動画だけである」と可能性を狭めたくない。いろんなものを包含できるような柔軟さは兼ね備えつつ、成長をしっかりと維持していきたいですね。

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