日本SF界の権威「星雲賞」にノミネート 『十三機兵防衛圏』はなぜ支持を集めるのか 

緻密な設計によりシナリオを下支えする『追想編』の存在

 『追想編』は、13人にまつわる断片化されたエピソードを、キャラを選択しながら少しずつ読み明かしていく形で進行する。『十三機兵防衛圏』ではそれぞれの主人公のルーツとなる時代がバラバラであるため、プレイヤーは時間軸を無自覚に移動しながら同パートを進めていかなければならない。

 こうしたストーリーテリングの形式は、オーソドックスな時系列での進行に比べて物語の根幹となる謎を隠しやすく、プレイがマンネリ化しづらいメリットを持つが、一方で細切れとなったパート同士の辻褄が合いにくくなるデメリットもはらんでいる。5つの時代をまたぎながらひとつずつストーリーが組み立てられていく『十三機兵防衛圏』にとって、この短所は極めて踏みやすい地雷だ。しかし、同作はインデックス的な機能を持つ『究明編』との調和により事故の回避に成功している。メソッドに対する高い理解とゲームシステムにおける構成力でそのシナリオは支えられていると言っても過言ではない。

 もともと『追想編』のシステムには、キャラの選択によって体験するエピソードの順序を決められる自由度があるため、個々のプレイヤー間で物語の進行度に差の生じる危険性が存在している。しかしながら同パートでは、極めて重要な部分にフラグを用意することでプレイヤーの体験がコントロールされていた。現代のタイトルにとって「自由度」は重要な評価基準である。『十三機兵防衛圏』においては、シナリオの質を担保できる範囲で最大限プレイの自由度に配慮がなされ、それでいて面白さを失わない設計が目立っていた。

 『十三機兵防衛圏』がノミネートされたメディア部門は、書籍やアートといった特定の要素の影響力が強い部門(書籍であればシナリオそのもの、アートであれば見てくれ)に比べ、総合芸術的である側面を持っている。同作にメディア作品としての総合力がなければ同賞へのノミネートはなかっただろう。

 つまり、今回の栄誉はシナリオの質の高さのみで勝ち得たものではない。本記事で掘り下げたシナリオ面におけるシステムはもちろん、ヴァニラウェアが真骨頂とする美しいグラフィック、コンパクトながら必要十分な設計の『崩壊編』、その他さまざまなエッセンスが高次元でシナリオと融和したその完成度によって、『十三機兵防衛圏』は話題性・芸術性を獲得し、SF作品としても認められるに至ったのだ。

 書籍や映画、アニメ、コミック、アートといった並み居る文化に、ゲームはどのような存在感を示していけるのか。『十三機兵防衛圏』星雲賞ノミネートのニュースには、ゲームカルチャーの持つ無限の可能性を感じずにいられない。

■結木千尋
ユウキチヒロ。多趣味なフリーライター。
執筆領域は音楽、ゲーム、グルメ、テクノロジーなど。カルチャー系を中心に幅広いジャンルで執筆をおこなう。
人当たりのいい人見知りだが、絶対に信じてもらえないタイプ。Twitter:@yuuki_chihiro

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