Travis Scottの「Astronomical」は、『フォートナイト』から生まれた現代アートだ
「リアルを超えた」Astronomical
以上のようにその独創性が高く評価されたAstronomicalが誕生した下地は、実のところ、これまでの『フォートナイト』の歴史を振り返ると明らかになる。そうした下地には、以下のようなものが指摘できる。
・昨年開催したMarshmelloのバーチャルイベントを成功させたことで、音楽イベントに関する実績を作った。
・同ゲームの歴史の節目において数々のワンタイムイベントを開催したことにより、大規模バーチャルイベントの演出方法に関するノウハウを蓄積してきた(Astronomicalには、シーズン9のワンタイムイベントの影響が認められる)。
・同ゲームはゲーム動画制作者を支援したり、ゲームステージを自作できるモード「クリエイティブ」を提供したりしていることからわかるように、クリエイティブなコンテンツを奨励する文化が定着していた。
これらのゲーム文化的背景のなかでも、とりわけMarshmelloのイベントは重要である。同イベントがなければ、Astronomicalは誕生しなかったであろう。だがしかし、今回の音楽イベントは前回より大きく進化している。その進化を簡潔に言えば、「リアルを超える」であろう。Marshmelloのイベントではゲームマップ内で現実のライブを再現しているに留まっていた(下の動画参照)。対してAstronomicalは、海外レビュー記事が指摘しているように、モノの大きさや重力を自由に変えることができるゲーム空間によってのみ実現できるものとなっている。それゆえ、Astronomicalはもはやゲームイベントにおける音楽体験というよりは、先鋭的な現代アート作品と形容するのが相応しい。
Astronomicalを成功させたことで、『フォートナイト』は競技性と創造性の両側面を併せ持つゲームとして唯一無二の地位を改めて見せつけた。今後も新作バトロワゲーがリリースされるであろうが、クリエイティブなコミュニティとしても成熟している『フォートナイト』に比肩するゲームは、そう簡単に現れないのではないだろうか。
(2020/4/28 編集部追記)フォートナイト日本語公式ツイッターアカウントが4月28日にツイートしたところによると、Astronomicalの5公演において2770万人のユニークプレイヤーが参加し、接続数は4580万回に達した(以下のツイート参照)。
トップ画像出典:『フォートナイト』公式ニュース記事「フォートナイト & TRAVIS SCOTTプレゼンツ: ASTRONOMICAL」より画像を抜粋
■吉本幸記
テクノロジー系記事を執筆するフリーライター。VR/AR、AI関連の記事の執筆経験があるほか、テック系企業の動向を考察する記事も執筆している。Twitter:@kohkiyoshi