すゑひろがりずのゲーム実況はなぜ面白い? “憂き世”を忘れさせる、その魅力を徹底解説
カジサックや四千頭身、EXITなど、人気お笑い芸人たちのYouTubeチャンネルが活況を呈している。さらに、新型コロナウイルス流行を受けてほとんどのお笑いライブが中止・延期になった結果、ライブを中心に活動している若手芸人たちがチャンネルを新たに開設したり動画投稿数を増やしたりと、活動の場所をYouTubeに広げてきている。
そんな中にあって、現在勢いを見せているのが「すゑひろがりず局番」だ。お笑いコンビ「すゑひろがりず」のYouTubeチャンネルである。3~4月の約1カ月で登録者数を10万人増やし、現在は約18.2万人を突破(4月15日時点)。もちろん、YouTuber業界全体でみればまだまだ少ない。だが、この数字は本田圭佑と同程度(17.9万人)、あるいは三代目 J SOUL BROTHERS・山下健二郎の「山下健二郎の釣りベース」(17.3万人)より少し上だ。そう考えると、若手芸人としては大健闘といえるだろう。
すゑひろがりずは、ボケの三島達矢とツッコミの南條庄助からなるコンビで、2011年に結成。和服姿に扇子と小鼓を携え、能や狂言といった伝統芸能風に漫才・コントを行うスタイルが特徴だ。2019年の『M-1グランプリ』で初めて決勝に進出し、一躍知名度が上昇。袴姿の2人が「召して召して! 召して召して!」と「狂言風“合コン”」のネタを披露する姿は、それまで彼らの存在を知らなかった視聴者に強い印象を残した。
チャンネル開設自体は2019年2月と1年以上前だが、その後「【ウイニングイレブン】#1 すゑひろがりず、サッカー用語を全て古典単語に変換してみた!」などを投稿したのち、しばらく開店休業状態に。最初に火がついたのは、今年1月に投稿した「【バイオハザード RE:2】#1 すゑひろがりずがホラーゲームを全て古典単語に変換してみた!【狂言風ゲーム実況】」だった。
タイトル通り、『バイオハザード RE:2』を古典風単語を使って実況。壁に貼られた水着美女のポスターに「姫君の春画じゃ!」とコンビで盛り上がったり、銃を撃つシーンで「某、火縄の腕は確かなのじゃ」とプレイしている三島が自信を見せれば隣で見ている南條が「褒めてつかわす」と返したりと、芸風を遺憾なく発揮する。その後も『バイオハザード』の実況動画が投稿されるたび、ゾンビのことを「白眼(しろまなこ)」、クリーチャーを「赤諸手(あかもろで)」、体力を回復させるグリーンハーブを「よもぎ」と呼ぶなど、すゑひろがりず流のワードが次々と生まれた。観る人にもおなじみのネタになり、コメント欄は「◯◯する南條殿よもぎ生える」(よもぎ→草→「草生える」)など、彼らと同じように古典風の言葉遣いで盛り上がるように。同時に、すゑひろがりず局番ファンのことを「まなっこ」と呼ぶ流れが生まれ、ファンコミュニティが立ち上がっていった。
そして大きく登録者数を増やすきっかけになったのが、3月31日に公開した『【すゑひろがりず】あつまれどうぶつの森を狂言風ゲーム実況してみた!【あつ森】#1』だ。
オープニングから「集え!けもの共の藪!」と変換されたタイトルで始まり(「森」はそのままでもよかったのでは? と思うが……)、まめきちたちが登場すれば「たぬきに化かされる!」と警戒心をあらわに。無人島に移住すると説明されれば「島!? 島流しか!?」「島流しにあうと申すか!?」と慌てふためいたのち、「なれば幕府を開こうぞ」と開府を企てる。鍛え上げてきた“変換能力”と、ゲーム自体への不慣れさが相まって、リアルに“昔の人”がプレイしているような面白さが注目を集めた。現在、すでに100万回再生を突破している。
なぜ彼らのゲーム実況が人気を博しているのか。本人たちのバックボーンを知らずとも笑いどころが伝わりやすいいわゆる“キャラ芸人”とゲーム実況は、相性がいいと考えられる。だが、YouTubeに注力しているキャラ芸人は実はまだ多くない。ゲーム実況となれば、その数はなおのこと少なくなる。「まだ助かる……マダガスカル!」でおなじみの宇宙海賊ゴー☆ジャスという先駆者はいるが、多くの芸人チャンネルはトークや企画がメインで、ゲーム実況に本腰を入れているライバルはほとんど存在しないのだ。
すゑひろがりずが現在の芸風になったのは2012年頃。8年かけて体に馴染みきった古典芸能キャラから脊髄反射で古典風単語をはじき出す様子は、ときどきうっかり現代語をそのまま口にしてしまう綻びも含めて、彼らのことを知らなくても笑えるものに仕上がっている。
彼らが“遅咲き”であることも功を奏しているだろう。ブレイクは昨年だが、2人揃って37歳と決して若くはない。さらに、本人たちもエピソードトークで「服装のせいで“師匠”だと勘違いされがち」とたびたび語っている通り、和服姿で年齢が上乗せされて見える。その“おじさん”たちが、仲良さげにゲームに興じている姿は視聴者の心を掴む。