wacci、なぜLINEのサービスを積極活用? 「ベツカノ」ヒット後に感じた“手軽なチケット”の重要性

 「別の人の彼女になったよ」がSNSを中心に大きな話題を集め、さらに注目度を高めた5人組バンド、wacci。ニューアルバム『Empathy』を引っ提げた全国47都道府県ツアーを開催中の彼らに、アルバムの制作、ツアーの手ごたえ、そして、今回のツアーから導入されたLINEチケットなどについて語ってもらった。(森朋之)

「こういう面を押し出しても大丈夫なんだ」(橋口)

橋口洋平(Vo/Gt)

ーーまずはロングヒットを継続している「別の人の彼女になったよ」について。“歌詞が良すぎる!”とSNSを中心に広まり続けていますが、この現象をどう捉えていますか?

橋口洋平(Vo/Gt):嬉しいですね。多くの方に聴いてもらえていることはもちろんだけど、こんなに“歌いたくなる曲”になるとは思っていなかったです。カラオケでもずっと歌われているし、路上ミュージシャンもみんな歌ってくれていて。

横山祐介(Dr):いろんな方がカバーしてくれてるんですよ。そらるさんをはじめとする歌い手のみなさんも歌ってくれてるし、この前はガチャピンも歌ってました(笑)。

横山祐介(Dr)

ーーじっくり聴いていくうちに、いろんな感情が呼び起こされる楽曲ですよね。

橋口:そう、記憶を掘り起こす作用もあるみたいです(笑)。フルで聴いてくれた人たちが衝撃を受けて、広めてくれたところはあると思いますね。

村中慧慈(Gt):MVをフルで出してから、どんどん広がったんですよ。

村中慧慈(Gt)

ーーなるほど。12月4日にはニューアルバム『Empathy』がリリースされました。“ベツカノ”のヒットの影響を受け、どんなアルバムにしようと思っていましたか?

橋口:“ベツカノ”は、いままで僕らがリリースしてきたシングルとはかなり違う曲だったんですよね。僕自身はそういう歌も書いていたんですが、表に出るものは応援歌や優しい歌が多かったので。

村中:うん。

橋口:でも、“ベツカノ”をリリースして、それが広がってくれたことで、「こういう面を押し出しても大丈夫なんだな」と思えて。その結果、ふり幅が広がったんですよね。アルバムには背中を押せる応援歌はもちろん、歌詞、サウンドを含めて、いろんなタイプの曲が入っていて。そういう意味では、“ベツカノ”の影響はあったと思います。

村中:アレンジの幅も広がりましたね。前作(「群青リフレイン」)からは、全員でアレンジするというより、メンバー個々が楽曲ごとにイニシアティブを握るようになって。それぞれが好きなジャンルやテイストが反映されて、いい作用が生まれているんですよね。今回のアルバムではそれがさらに上手くいったと思います。制作はしんどかったけど(笑)、出来上がったものを聴くと、「いいアルバムになったな」って。

因幡始(Key)

因幡始(Key):個人的には「サウンドの幅が広がった」という感覚がないんですよ。以前から“やりたいことリスト”のなかにあったものが自然と出てきたというか。以前は、「wacci(の音楽性)って、こうだよね」という枠に囚われていた時期があった気がするんですよね。wacciらしさを勝手に決めていたというか。でも、ここ2、3年は、「橋口の歌と歌詞とメロディがあれば大丈夫」と思えるようになって、アレンジに関しては「鍵を全部開けちゃおうぜ」という感覚になれて。その結果が、今回のアルバムなんだと思います。僕はジャズが好きなんですが、その要素を取り入れた曲もあるし、リミッターをかけずに制作できましたね。最近、「EDMをやってみようか」という話もしてます(笑)。

横山:EDMはまだやったことないからね(笑)。

小野裕基(Ba):バンド結成から10年の経験も活かされていますね。少しずつ、自分たちがやっていることの自信が持てるようになったというか。“ベツカノ”が出来たときも、レーベルや事務所のスタッフからは「出さないほうがいいんじゃないか」という意見もあったんです。メンバー5人から「どうしてもリリースしたい」とお願いしたら、リスナーの反応がすごく良くて。その経験があったからこそ、今回のアルバムも、自分たちがいいと感じたことを信じて制作できたのかなと。

小野裕基(Ba)

ーー「Empathy」は“共感”“共有”“感情移入”という意味で、“Sympathy”よりもポジティブで能動的なニュアンスがあります。歌詞も、より強くリスナーの感情に訴えている印象がありました。

橋口:アレンジをメンバーに任せられたおかげで、歌詞に時間をかけられたんです。伝わりやすさ、わかりやすさを意識していたし、しっかり焦点を絞れたのかなと。歌詞には例えば“ありがとう”“出会えてよかった”みたいな、大きいフレーズを使うパターンと、“主人公がどういう状況にいて、どんな気持ちなのか”を細かく描写をするパターンがあるんですが、今回は後者が多いんです。狭くて具体的な歌詞が多いぶん、心に刺さってくれたのかなって。“ベツカノ”もまさにそうですよね。

ーーYouTubeのコメントを読むと、この曲がしっかり届いてるのがわかります。リスナーのみなさんが自分のリアルな経験や気持ちを書き込んでいて。

橋口:そうなんですよね。コメント欄には、歌の題材がいっぱいありますね(笑)。

ーー現在行われている47都道府県ツアー『wacci 47都道府県ツアー 2019-20 〜Empathy〜』の手ごたえはどうですか?

橋口:今回のツアーは、最初の7本がアコースティックツアー、その後がライブハウスツアーで、2020年5月に京都、愛知、福岡でホールツアーという3部構成になっているんです。アコースティックツアーは“自分たちの部屋でゆったり楽しんでもらう”というコンセプトだったので、僕らも椅子に座って、純粋に音楽を楽しむことができて。ライブハウスツアーに関しては、『Empathy』がライブを見据えて作ったこともあって、すごく盛り上がっているし、熱くて楽しいライブが出来ています。この先も「この雰囲気のままいけそうだな」という手ごたえがありますね。

ーーアコースティック形式、ライブハウス、ホールによって、当然、アレンジも変化しますよね。

橋口:そうですね。アコースティックツアーのときはすごくアレンジに凝ったんですよ。ブルーノート(ジャズ・クラブ)でも演奏できるような雰囲気にしたくて。

横山:うん。歌を真っ直ぐ届けることを意識して、改めてwacciの楽曲を見直しながら、メンバー全員でリアレンジして。ライブハウスツアーは全然テンションが違いますね。

因幡:アコースティックツアーとライブハウスツアーでは、曲を演奏して、届けるときのメンタルがまったく別物なんですよ。アコースティックツアーではひとつひとつの音を楽しんでもらうこと心がかけていて、ライブハウスツアーはギュッとした空間のなかで、音の塊をドン!と伝える熱量が大切で。ギアの入り方が全然違いますね。

横山:ライブハウスツアーで印象的なのは、新しいお客さんが増えたこと。「別の人の彼女のになったよ」がたくさんの方に聴いてもらえたおかげで、「初めてwacciのライブに来ました」という方がすごく増えたんです。

村中:会場によっては、半分以上が初めてのお客さんということもあって。

橋口:前回のツアーに比べて、新しいお客さんが3倍くらい増えてますね。ビックリです。

村中:ヒット曲ってすごいなって……自分で言うのもおかしいですけど(笑)。

橋口:(笑)。確かに曲の力は感じますね。いまは曲が独り歩きしていて、wacciを認識していない方もいると思うので、もっと知ってもらえるようにがんばりたいです。

小野:今回のツアーは地元の方もたくさん足を運んでくれて。県民性みたいなものも感じられるし、いろんな場所に音楽を届けられている実感があります。

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