空間演出ユニットhuez「3.5次元のライブ演出」第三回(後編)

Maison book girlのワンマンにおいて重要視する概念は? 空間演出ユニットhuezの『Solitude HOTEL』作り方解説(後編)

世界観を守りながらエンタメを成立させる

ーーそして年が明けて2019年4月、「Solitude HOTEL 7F」が開催されました。

YAVAO:7Fは最初に世界観の資料が送られてきて、その情報を整理してまとめるところから始まりました。7Fの世界観解説図みたいな物をもらったのですが、結構難解で。

としくに:このライブの前に「SOUP」というシングルが発売されてて、それをベースにしたビジュアルとか、楽曲の世界観なんかは組み上がっていました。なのでその世界観の説明をもらうところからのスタートです。その中で出てきた「首だけの鳥」っていうキャラクターについて確認したり。サクライさんに「ヨナって名前なんだよ」と言われて。

 あと7Fでは舞台美術のデザインも初めてhuezでやることになりました。特殊照明的な立ち位置からスタートして、舞台上にもアイデアを出して、7Fは本格的に「演出」っていうパートで関わった公演でした。昭和女子大学人見記念講堂、という舞台でやったんですが、初めて特殊効果(特効)も入れて、舞台上で煙を焚きました。

 あそこは天井が高いので、スクリーンを飛ばしきったり、赤い布を天井に上げきったり、そういう演出も取り入れて。かなり色んな所に手を入れているんですが、実は、過去のライブの中で機材量が一番少ない公演です。うちが持っていったの、プロジェクターとOHPだけなので。あとは舞台美術です。

YAVAO:今回は美術も入ってるのでレーザーもカットになって、7Fは比較的映像を作るターンが多かったです。久々にやった「bath room」ではMVを編集したり、「おかえりさよなら」では当日の本番開場1時間前に撮影した映像を即書き出して編集したり……。あとはOHPのハラタさんにも来ていただいて。「まんげつのよるに」のOHPが美しくて、個人的にすごく好きです。「新しい曲からどんどん古い曲に戻っていって、また新しい曲に戻っていく」っていう仕掛けがあったので、映像でもそれを見せたくて、結果的に過去のライブ映像を全部編集することになりました。5時間、6時間分のデータを全部切り刻んで。

 あと「sin morning」でブクガなりのサービス映像だと思って、会場のカメラで撮ったアップの映像にリアルタイムでエフェクトをかけてバックに出したり。

 

としくに:アイドルのライブって背景に顔アップが映る「サービス映像」のタイミングが絶対にあるんですけど、これをブクガ流でやるならどうしよう、と思ったんです。結果的には顔は映っているんだけど、エフェクトが掛かっててよく見えない、みたいな映像になりました。

 演出側の意識としては、今までの「Solitude HOTEL」では王道のライブをするか、すごくコンセプティブで尖ったライブをするかの2択だったんですけど、このライブは両方を掛け合わせたライブじゃないとダメだった。ブクガの色のままで、いろんな視点から楽しめるショーを作る必要がありました。

YAVAO:ハードがシンプルだったので、メンバーさんのパフォーマンス力がよく見えるライブになったと思います。最初にサクライさんからもらったテキストと「世界観のルール」が5Fや6Fよりも強力だったので、そのルールを守りながらエンターテイメントとして成立させること、ブクガのお客さんが求めているエンターテイメントをどうやって作るのか、ということに苦労しました。

としくに:たしかにそうだね。お客さんの目も肥えていくじゃないですか。ファンの方もブクガのライブを見に来るセッティングができてる。7Fのときは、暗転の後の、お客さんの拍手の間が上手だなって思った。ライブの間を理解していると言うか。特に難しかったのは濡れるシーンです。ブクガのみなさんが水に濡れて出てくるシーンがあって、水浸しのコショージさんが絶叫してポエトリーを読むんですけど、濡れてることを舞台上でうまく伝えるのが難しかった。後から映像を確認したらいい感じに見えたんですけど、現場では遠くの席からはどうしても見えづらかったんです。

YAVAO:世界図を読むと「他の世界に移動するとき水面を通る」ようで、それで濡れたみたいです。

としくに:あとは中盤の「cloudy irony」から終盤にかけて映像にブロックノイズみたいな白い四角いノイズを入れるシーンがあって、これは「7F」で初めて取り入れました。曲中に白いノイズがだんだん増えていって、最後、会場に煙をぶわっと焚く。煙が出るタイミングでそのノイズは消すつもりだったんですが、本番中にサクライさんから「ブロックノイズ続けてください!」って言われて。

YAVAO:プログラム的に、ブロックノイズを出し続けられる設計にはなってなかったんですよね。いきなりのオーダーで、しかも目の前でライブは進んでて時間もない。どうにかその場で2分ぐらい使ってTouch Designerを組み替えて、「ブロックノイズを増やせるフェーダー」を作りました。

としくに:そしたらサクライさんがチラチラこっち見るんですよ。本番中に手が空いてて操作できるの、僕しか居ないんで(笑)。なのでそのフェーダーを急遽本番中に動かしました。ぶっつけ本番で横にいるサクライさんにフェーダーの上げ具合を指示されながらバーってフェーダー上げて。そしたらプロジェクターで投影したブロックノイズが、焚かれた煙の上に投影されて、「ブロックノイズが客席に迫ってくる」っていう面白い演出ができた。ホッとして見てたらまたサクライさんが寄ってきて、なんか怒られるのかな、って思ったら「OKです!」って言われて。それは本番後でいいよ!って(笑)。

 こういう仕事は同じことの繰り返しになってしまうこともありますが、ブクガは絶対同じことをしてこないので楽しいですね。「謎解き脱出ゲーム」みたいだな、って思うときがあります。サクライさんとかコショージさんとかYAVAOが作ってくる謎解きゲーム。

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