空間演出ユニットhuez「3.5次元のライブ演出」第三回(後編)

Maison book girlのワンマンにおいて重要視する概念は? 空間演出ユニットhuezの『Solitude HOTEL』作り方解説(後編)

「機材屋」と「演出家」の間で奔走

ーー「hiru/yoru」公演からちょうど3週間後の12月16日、「Solitude HOTEL 6F yume」が開催されました。

としくに:「hiru/yoru」を作ってる途中に「yume」をやるのがほぼ確定して、「『yume』ではニューアルバム(yume)を丸々やろう」という話になりました。「hiru/yoru」をあそこまで振り切ったコンセプトライブにできたのは、「yume」が決まっていたからだとも言えます。だから、セトリは一瞬で確定したんですよ。ニューアルバムの途中からライブを始めて、アルバムのラストからスタートにつないで……っていう流れも速攻で決まりました。

 課題だったのは演出です。「hiru/yoru」であそこまでコンセプトに振ってしまったので、王道のアルバムリリースワンマンライブをどうやって盛り上げるか、という。あと、「hiru/yoru」の演出が光を使った「舞台外からのアプローチ」だったので、「yume」に関しては美術やブクガさん自身にフォーカスした「舞台上からのアプローチ」を取る必要があるかな、とも思っていました。ただ、ブクガさんとの仕事で舞台上のアクトに干渉するのは初めてのことで、huezのテクニカルの部分とメンバーの動きを合わせていくのが難しかったです。サクライさんからたくさんアイデアやルールの解説、要望をもらって、舞台上にベッドを置いたり、あとはOHP(オーバーヘッドプロジェクター)を舞台上に置いて、ブクガの皆さんに触ってもらう演出も入れました。5Fの「レインコートと首の無い鳥」で初登場したペストマスクも取り入れて。この公演で試した舞台上からのアプローチは、7Fのときにも武器になりました。

 あと、僕の中で「ブクガ筋」って言い方をしているんですが、メンバーの皆さんはみんな謎の筋肉が付いていて、例えば「暗転の間を平然としている」って、すごく怖いことなんですよね。彼女たちはその状態で舞台を持たせる、テンションを張り続けるための"筋肉"がとても鍛えられているんだ、っていうのはそのとき改めて感じました。「オルゴールが鳴っているなか、ぼーっと空を見上げているだけ」を成立させるのはすごい筋肉ですよ。普通だったら怖いですよ、あの間。「何もしていないじゃない?」って。でも「『何もしていない』をしている」から、しっかり立っていられる。

YAVAO:制作としては、いつになく大量に映像を作ったライブでした。このアルバムはインスト曲がとても多くて、メンバーさんのハケるタイミングも多数あったので「int」「move」とかも僕が映像を仕込んでいます。「rooms」もいつもとちょっと違う演出にしてて、MVの素材をもらって背景に入れ込んで、メンバーの顔がおぼろげな形で見えるようにしました。「ボーイミーツガール」では少女の映像素材にモーフィングエフェクトをかけたり、ノイズをガリガリに走らせたり、顔をグリッチさせたりして。

 「ボーイミーツガール」でよく覚えてるのは、少女たちの顔を歪ませるのであんまりエフェクトかけるとさすがに気持ち悪いだろうなと思って、最初ちょっと控えめに作ったんですよ。そしたらサクライさんに「もっとやんなきゃダメですよ」って怒られて、結構はっとして。サクライさんのスタンスを勉強させてもらった瞬間でした。尖ったことをちゃんとやろう、みたいな。

 それでもっと気持ち悪い感じでエフェクトガリガリにして、それをずっと一人で編集してたんで夢に出てきて……(笑)。

としくに:サクライさんから勉強させてもらう瞬間は度々あって、結局僕らはどこかで自分たちのことを「機材屋」だと思っているので、ハードの限界とかで無意識に自分を縛ってしまうんですよね。この公演で「yume」のサビをどうするか、という話をしていたとき、「サビの瞬間にプロジェクターで真っ白の光を当ててください、それ以外いりません」って言われて。僕らはそういう演出が舞台で成立するのか不安に思ってしまうんですが、実際に本番で目の当たりにしたらきれいに成立している。こういう演出プランは機材屋的な発想では出せないです。

ーー当日の仕込みはいかがでしたか。

としくに:照明の釣り物とかはそこまで派手ではなかったんですが、舞台上からのアプローチを取った結果、リハでやることがめちゃくちゃ多かったです(笑)。メンバーの出ハケのCueシートとか、全部僕が書きました。舞台監督さんとベッドメイクもしました。

 本番でよく覚えてるのがYAVAOのアドリブでした。YAMAGEは事前にキメキメに作った素材で完全に決め打ちのオペレーションをするのに対して、ヤバはまれに、その場の機転で演出を変えることがあって。よく覚えてるのはラストに幕が閉じている時、予定ではプロジェクターの光を落とすはずだったんですよ。でもまだ光が残ってるときにヤバが、「合ってるから放置」って言ってフェーダーを降ろさなかったんです。

YAVAO:なんかあそこで白いのを消すと、予定調和すぎて気持ち悪いなと思って。

としくに:みたいなことを突然やったのでビビりました。確かに舞台には合ってたんですけど。あとアドリブで言うと、本番中にサクライさんが寄ってきて、「これやってください」みたいなことを突然言う時があるんですよ。そういう本番のアドリブが成立するようになったのは、クルーがある程度完成してきたからだろうとは思っていて。それは信頼関係のひとつだから嬉しいんですけど、心臓は痛いです(笑)。

YAVAO:これはワンマンとは関係ないんですけど、あるフェスにブクガが出た時、出番直前にLEDディスプレイがバグってしまい、急遽僕らがその場で「バグっぽいノイズ映像」を用意してVJしたことがあります。結局ディスプレイの故障が悪化して、右半分が映らなくなってしまったんですが、そこにサクライさんが来て「画面に『bug』という文字を表示できないか」と言われて。どうにかその場でテキストを表示して続行したんですが、あれはトラブル対応で全員が機転を利かせて動けた事例でした。

 個人的には、トラブルはチャンスだと思っています。トラブルによりその場のお客さんしか得られないコンテクストが発生するので、それを利用してエポックな体験を生み出したい。その後Twitterでお客さんが「バグも演出だと思った」とツイートしていたのを見て、嬉しかったですね。

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