『FAVRIC』が提示した、「バーチャル」×「ファッション」の多様性
バーチャル×ファッション×音楽が生む多様性のエクストリーム
このイベントで何よりも印象的だったのは、ファッションイベントとしての魅力、VTuberのリアルイベントとしての魅力、音楽ライブとしての魅力のそれぞれが、ひとつとしておざなりにされることなく、細部まで愛が感じられる形で追求されていたこと。
ファッションイベントとしてのスタイリッシュさや現実の物理法則を無視した衣装の数々、サウンド&アレンジ面での多彩さや充実度、パフォーマンスの魅力を最大化する舞台演出、普段の活動を踏まえての特別なコラボレーション――。そのすべてにおいて、「何かをつくる/表現する」ことの魅力が、他分野を横断する形で立ち上がってくるような雰囲気だった。
そもそも、バーチャルなタレント/ミュージシャンの活動には、それぞれの違いを楽しむ「多様性のエクストリーム」のような雰囲気があり、それがこのシーンに多くの人々が惹かれる理由のひとつにもなっている。多領域のプロフェッショナルが手を取り合った『FAVRIC』は、そうした意味でも、バーチャルな存在の魅力を伝えてくれるイベントになっていたように思える。
ラストは「Rookie's Runway」と銘打ち、本編には出演しなかった総勢51名の公募企画の当選者たちが登場。このコーナーには新人VTuber以外にも、3Dモデリングもできる人気VTuberのもちひよこや、かしこまりの相棒兼マネージャーとして知られるパンディ、直近の開催回で延べ70万⼈以上を動員したVR空間での即売会『バーチャルマーケット』の主催者・動く城のフィオらを筆頭に、これまでバーチャル文化をつくってきた様々な顔ぶれも集結しており、人気や活動歴にとらわれない多彩な面々がひとつになってランウェイでボカロ曲「Dear」を熱唱。まだまだはじまったばかりの文化であるVTuberやバーチャルな領域で活動する人々の多様性を、改めて伝えてくれるような雰囲気が生まれていた。
終演後のスクリーンには「See You Next Year!!」というメッセージが表示され、来年の開催への期待を感じさせる形で終了。これが毎年恒例のイベントになってほしい――。心からそう感じられるような、バーチャルならではの可能性が全編にぎっしりと詰まった空間だった。
■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。