BTSの世界展開もサポート デジタル・ディストリビューター「The Orchard」が目指すものは?

「The Orchard」のデジタル流通論

「アーティストがいろんな環境を選べて使い分けれるほうがいい」

――The Orchardに関して、海外での浸透度と日本での存在感についてはどんな感触がありますか。

金子:海外ではそれなりに知名度はあると思いますが、日本はほとんど知られていないと思いますね。実際に使っている人や各DSPの方以外は知ることはなかったでしょうから。ようやく日本にオフィスが立ち上がった状況で、これまでは、なにかしらの情報で「海外にThe Orchardという大手ディストリビューターがある」とは知っていても、TuneCoreさんと違って日本のオフィスがなかったので、壁があったんです。日本に拠点がないから英語でやり取りをする必要があった。先陣をきってその壁を解いたのが、日本だとTuneCoreさんだと思います。

――このタイミングで日本オフィスが立ち上がった理由は?

金子:ずっとトライアルはしていたみたいなんですが、要は人が必要だったそうです。音楽業界が長くて、英語も喋れて、デジタル/フィジカルのパッケージ状況を知っている人。そういう条件を満たす人材がいなかった。彼らからすると、日本は世界で二番目に大きい音楽マーケットを持っている国なので、拠点を作りたいとずっと思っていたみたいなんです。でも、言語のバリアの中で難航したというのが正直なところだと思います。

――The OrchardやTuneCoreだけではなく、世界にはいろんなデジタルディストリビューターが点在している状況なんでしょうか。

金子:そうですね。いろんなディストリビューターがいます。

――たとえば最近では小袋成彬さんが、ソニーミュージックに所属したまま単身ロンドンにわたって自らのレーベル〈ASEVER〉を立ち上げたという話もありました。彼がパートナーに選んだAWALもThe Orchardと同じようなデジタルディストリビューターですよね。たくさんのサービスがあって、インディのアーティストやレーベルがそれらを選んで使っているという状況だということでしょうか。

金子:そうですね。ただ、僕はいわゆるメジャー/インディという言葉をできるだけ避けるようにしているんです。もともとの「独立した」という意味で「インディペンデントなアーティストを支援します」という言い方にしているんです。メジャーのアーティストであっても、自分で何かをしたいという人であれば使うことができる。「自分で何かをしたい」という人に対しての環境を用意するという意味で、インディペンデントなアーティストやレーベルさん向けのサービスをやりますという言い方をしています。僕の中での定義としては、お金を出してくれるところがメジャーで、自分で何かしなきゃいけないけど、自分でアクションを起こせばなんとかなるのがインディペンデントという違いですね。そういう中で、アーティストにもうまく使い分けてもらえればと思います。

――先ほども「コンテンツによってフォーマットを使い分ける」という話がありましたが、小袋成彬さんのように、メジャーに所属しながらThe Orchardを使うこともできる。

金子:たとえばメジャーで所属していても、サブプロジェクトに関してはメジャーじゃないところでThe Orchardを使って配信するというような動きがあってもいいと思います。もっと言うと、スタジオアルバムはメジャーで出すけど、ライブアルバムはインディで出すといった、コンテンツベースで考えることもありだと思います。それぞれ契約や事情があると思いますが、アーティストがいろんな環境を選べて使い分けることができるほうがいい。そういう意味で、新しいことに敏感なアーティストさんやレーベルさんからは、すでに声がかかっています。

――現状では、日本でもより多くのアーティストに対して存在感を高めていきたいというのが、これからの課題ということですね。

金子:そうですね。ただ、The Orchardの強みを実感してくれるアーティストが一組でもいれば、きっとそこから広まっていくと思うんです。YouTubeにフルでMVを公開することも当然できるし、それを収益化することもできる。メジャーのアーティストでも契約できる。もちろん、我々のシステムを使っていただいたがゆえの成功があれば、それが実例を伴ったブランド力になっていくと思います。

(取材・文=柴 那典/撮影=はぎひさこ)

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The Orchard Japan公式HP

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