AIが「言葉の豊穣さ」を手にするためにーー業界の風雲児がサブカルチャーに"ツッコミ続ける"理由

AI業界の風雲児が掲げる「言葉の豊穣さ」

「世の中のAIは異方的で、言葉の豊饒さを扱えていない」 


ーー誰でも作り手になれる世界ってことですね。竹之内氏さん自身サブカルに精通してらっしゃいますし、「俺だったらこうするのに」みたいなアイデアがたくさんありそうですよね。例えば、Radiotalkの6話目の中ではアニメ『正解するカド』の話が出ていました。放送当初面白いと話題になっていましたが、後半に行くに連れて話題に挙がることが少なくなっていったように感じます。

竹之内:そうですね。最終回に超サイヤ人のような存在のユキカが出てきて、全てを回収していきましたからね。僕が思うのは、残念な最終回のもっと手前で打てる手があるというか。結局、ヤハクィザシュニナの最終的な目的は異方に情報をたくさん生み出す人類を連れて行って、異方でもっと情報が消費できるようにしたいってことですよね。それって、情報とかコミュニケーションを一面的にしか捉えてない結果なんですよ。情報を扱うプロとして見ると、「このコミュニケーションの理解はステレオタイプ的だな」と思うんです。

ーーコミュニケーションはもっと多面的だ、と。

竹之内:何かを相手に伝えた時に、「今の会話で◯◯%自分の気持ちが伝わった」と考えるのがザシュニナにとってのコミュニケーションで。それってシャノン情報量みたいな話なんです。言語を扱うAIでも『「King(王様)」―「Man(男)」+「Woman(女)」=「Queen(女王)」』というアナロジカルな式が例として使われるんですが、これって言語だけれど数値的な計算なんです。ザシュニナはこういう数量的な側面でだけコミュニケーションを捉えているんですよね。作品の中で、真道がザシュニナに「パイプ椅子が似合わない」と言うシーンがあるんです。この「似合う」というのも、僕たちは「あなた、◯◯%で似合ってますね」なんてコミュニケーションは取らないですよね。それに「似合う」という単語一つにも色んな意味がある。言葉って多義的に使うものです。誤解すらあり得るような豊饒さが言葉の可能性でもあり、不可能性でもある。

ーー『正解するカド』の中に、電気を無限に作れる「ワム」というものが登場しましたが、「無限」という言葉にもいろいろありそうです。

竹之内:例えば、自然数と実数って無限にあるわけじゃないですか。両方無限なのに、「自然数と実数ってどっちが大きい?」という理論は普通にあるんですよ。だから、「無限」も無限にあると。つまり、ザシュニナがこの数学基礎論を知っていれば、それだけを持ち帰れば異方は満たされるだろ、と。言語の多義的な使われ方を知らないという無知と、こういう数学基礎論の無知。この無知があるから超サイヤ人的存在のユキカを持ってこなければならなくなったのかな、と思いますね。

ーーそこで言うと、異方にない「言葉の豊饒さ」という部分は、御社のAIは扱えていますよね。

竹之内:そうなんです。世の中のAIは異方的というか、言葉の豊饒さを扱えていない。弊社のAIは扱えている。だからこそ、僕は『正解するカド』に突っ込んでいると同時に、世の中のAIにもツッコミを入れているわけです。

 意識の外部化を目指す同社のAI。何気なく使っている「言葉」だが、想像以上の価値があるのかもしれない。世の中に同社のAIが広まっていくことを応援していきたい。

(取材・文=高橋梓/撮影=チーム未完成(ぴっかぱいせん、しをりん))

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