『Fate/Grand Order Orchestra Concert performed by 東京都交響楽団』

芳賀敬太&深澤秀行&三宅一徳に聞く、『FGOオーケストラ』CD・コンサート制作秘話

 4月3日と5月4日に東京芸術劇場・コンサートホールで『Fate/Grand Order Orchestra Concert performed by 東京都交響楽団』が開催される。スマートフォン向けFateRPG『Fate/Grand Order』の楽曲を、同ゲームメインコンポーザーである芳賀敬太と『魔法使いの夜』でもおなじみ深澤秀行がリアレンジ、ドラマ『Woman』『anone』などを手掛けて来た音楽家・三宅一徳がオーケストラアレンジを担当し、さらに本番に向けて篠田大介・萩森英明の2名もアレンジメントに参加。それを日本を代表する楽団である東京都交響楽団(以下、都響)が演奏し、第一線の指揮者・竹本泰蔵が加わるという盤石の布陣で演奏する。

 先日リリースされたCDアルバム『Fate/Grand Order Orchestra Performed by 東京都交響楽団』に収録された楽曲以外にも、多くの『FGO』曲が極上のサウンドで鳴らされるこの日に向けて、芳賀・深澤・三宅の3人に話を聞いた。(編集部)

「一番重要だなと思ったのが打楽器」(三宅)

ーーまずはこのプロジェクトの成り立ちから伺いたいのですが、芳賀さんはあらかじめこうしたコンサートを踏まえて楽曲を作っていたのでしょうか。

芳賀敬太(以下、芳賀):昨今のゲーム音楽は、オーケストラコンサートに行き着いているものも多いですし、今回のような規模感まではいかなくても、どこかで生演奏はできればいいかなと思って作っていました。アニプレックスの方とも会食で「いつかそういうことができるといいですよね」と言うくらい、夢のひとつではあったと思います。そこから少し空いて、2016年末〜2017年頭くらいにプロジェクトが動き出しました。

ーー深澤さん、三宅さんとご一緒することになった理由は?

芳賀:前提として、僕個人ではオーケストラスコアを作ることができないので、アレンジャーは必要でしたし、せっかくやるなら超一流の方々と、と思っていました。そこで、これまで一緒にやってきた経験や『Fate』シリーズに対する理解度のある深澤さんにお願いしたうえで、アニプレックスの山内真治さんに都響にアタックしていただいて、彼らから三宅さんを推薦していただきました。

深澤秀行(以下、深澤):声を掛けていただいてすごく嬉しかったんですけど、同時に「これは大変なことになるぞ……」と思いました(笑)。僕は最後までオーケストラ全体の面倒を見れるスキルを持っているわけではないので、最初に好き勝手やり散らかしたデモを作って、都響さんにお送りしたんです。そこからバタバタと動き始めて、三宅さんをご紹介いただいたので、もしかしたら「これは大変な曲ばかりだ」と思われていたかもしれません(笑)。

ーー三者の座組みを見た時に、深澤さんは芳賀さんと三宅さんの間に立つ形になるので、ある意味、調整役みたいなところもあると思ったのですが、やりたい放題だったと(笑)。

深澤:最初は、僕がいることでややこしくならないかと悩んだこともあったんですけど、皆さんから勇気付けられるお言葉をいただいたので、今の形に落ち着いたんです。

三宅一徳(以下、三宅):それで良かったんですよ。僕はゲーム関係のお仕事もやるんですけど、自分がゲームをプレイすることはほとんどないんです。ゲームの世界観や映像、プレイの流れを掴めているわけじゃないから、深澤さんのような方が間を取り持つことでユーザーと音楽が離れないように結びつけてくれる。ゲーム音楽のコンサートにありがちな「これは俺が知ってる曲と違う」ということが少なくなるわけです。重要なポジションなんです。で、私はそこから先の部分を担当したというか。ところで、常々僕が気にかけていることなんですが……一番最初にこの音楽を聴くのは誰だと思います?

ーー演奏家たち、ですか。

三宅:そうなんです。彼らは僕らに近い立場というか、基本的には音符を通してものを考える人たちなので、音の文脈や必然性を大事にするんですよ。そうすると、50人前後の集合体であるオーケストラに曲を渡すときにある意味、心理学的な側面が重要になってくるんです。譜面の上からだけで、いかに完成形のイメージを導き出させるか、音そのものに興味を持たせるかが大切で、それがやる気に繋がってきて音が変わってくるんですよ。そこの部分で醒めた演奏されると醒めた音楽にしかならないので、そのために私がいる、みたいな感じというか。

ーースコアを通して、演奏者にその気持ちを伝えるという行為は、聴き手側からするとなかなか想像が及びません。

三宅:例えば、スコアをゲームの攻略本に置き換えると、ゲームするときに「◯ボタンを357回押して、×ボタンを256回押して、その後に右のボタンを3回押して、それでゲームクリアです」って言われても何も面白くないですよね? オーケストラの人にそうやって音楽を強いちゃだめなんですよ。だから、◯ボタンを何回押すことにどういう意味があって、×ボタンをその次に押すからこういう効果があって、という情報を楽譜に込めないと、彼らと「気持ち」を共有することができないわけです。そういうものを細かく設定していくと、ただひたすらボタンを押すだけではない、情緒的な作業になっていくという。

ーーなるほど。演奏者に音を出す意図を伝えるのには、そんな大事さがあったんですね。

三宅:今回はその点において、一番重要だなと思ったのが打楽器でした。一見単調にみえる繰り返しが多い打楽器パートに関しては、譜面で伝えるだけじゃなくて、伝える側に演奏者も巻き込んじゃえということで、打楽器メンバーと事前に色々と打ち合わせをして、楽器選びの段階などから『FGO』の世界観を共有していきました。

芳賀:そこは一番大変でしたね。ゲーム音楽は基本的に一曲で一つの感情、シチュエーションを表現するので、そういう意味では場面の中に感情的なうねりがあれば違う曲に切り替わるんです。でも、今回オーケストラで表現するという時に「一つの感情がずーっと続いてるだけじゃダメ」となったときに、原曲のテンションは維持しつつ、どう変えていくのかというのが二人とも苦労されたところだと思います。

三宅:劇伴やBGMって、その性質上、構成はシンプルなことが多いんですよ。打楽器だったら2小節のループがずっと続いて、そこに大きなメロディがある、みたいな。また、それらをシンセサイザーで作ると、いかようにも音圧や音のバランスを自由にできるわけですが、PAを使わない生音でやることを前提にすると、それは無理なんです。あと、クラシックのコンポジション(作曲)で大事なのは「構成」なんです。「ドレミファソ」というモチーフから、どういう長大な曲を作るかみたいに、ある程度長い伏線を混じえた小説のようなものが良いとされているので、こうして組み上げるというわけです。

芳賀:ただ、基本的にはファンのものであるということも考えてシンプルのままじゃないといけない部分もあるので、その調整が難しいんです。基本的に、僕の監修的な部分は深澤さんとの間で完結していて、彼に全てを伝えて、やり取りをしながらベースとなるものが完成したら、あとはもう三宅さんに「良き形になるならやっちゃってください!」というスタンスでお願いしていました。

三宅:私もフォルムというか構成の流れ的なもの、いわゆる大枠の部分は一切変えていないんです。デッサン部分はもう完璧にできていたから、そこに色を付けていく作業に集中したというか。

芳賀:深澤さんは『FGO』のマスターでもあるので、僕が作品の言葉でどうしたいかというのは100%共有できていたのですが、深澤さんのデモを聴いて、また僕の方でやりたいことが浮かんでしまうっていう曲も多くて(笑)。

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