渡邉大輔が論じる、バーチャルカメラと「見ること」の禁忌 現代の映画に起きうる変化とは?
バーチャルカメラとポストカメラの時代
昨今の映像機材の技術的進歩はすさまじい。
昨秋に寄稿したコラムで話題にしたウェアラブルカメラ「Go Pro」の最新機種もそうだったが、アナログフィルムの時代ではありえなかった新たな性能を宿すデジタルテクノロジーは、今日の映像表現や演出にも無視できない影響を与えつつある。今回は、バーチャルカメラやXRカメラといった新世代カメラの台頭に注目しながら、今後の映画表現や映画的感性のひとつの方向性について、ざっくりと論点を出してみたい。
これも前回寄稿したコラムで触れたことだが、Go Pro撮影やドローン撮影も含まれる2010年代の映像制作の現場においては、フィルム撮影の時代とは異なる新たなカメラワークや映像演出が生まれている。それが、「これまでの映画では見たことのないような、迫力ある“多視点的”なカメラアイ」であることは、前回も記した。もちろん、これはGo Pro映画だけに限らない。ハリウッドのマーベル映画の映像が代表的な例であるように、今日のカメラアイやカメラワークは、原理的に空間のあらゆる位置から視点を設定でき、どんな動きで映像を描き出すこともできる。前回のコラムの関連部分もあらためて自己引用しながら、このことをまとめてみよう。
三脚に固定され、あるいは人間の眼の高さに据えられた従来の「人間=カメラマン中心的」なカメラアイやカメラワークは、いまや人間の手や重力から解き放たれ、ユビキタスな機動性を獲得しつつある。いみじくもGoProが発売された前後、何人かの映像研究者たちのあいだでは、「ポストカメラ」や「非擬人的カメラ」なる言葉が生まれていた。デジタル技術の進展により、人間の存在や操作をかいさずに機能するようになった新たなカメラワークや映像表現を指す言葉だが、まさに今日の「GoPro映画」こそ、このポストカメラ映画の最たるもののひとつであり、HERO7がそれをますますラディカライズしていくことは間違いない。
結論からいえば、今回話題に挙げたいバーチャルカメラやXRカメラもまた、こうした近年トレンドのポストカメラ映画の中心に陣取り、それをますますラディカルに推し進めていくことになるだろうガジェットである。
バーチャルカメラとは、もともとはソフトウェアで作られたCG空間のなかに生成されるある種の仮想的なカメラアイのことである。本来は、CGアートの領域で認知されていた機能だが、他方で実写映像のカメラマンもまた、クレーン、ステディカムといった実写撮影と同様の機材を使用して、現実の物理環境にいながら、まるでデジタル映像世界に入りこんだかのように「撮影」できることで、現代の映画制作にも広範に導入され、革新的な影響を与えるようになっている。「SIGGRAPH Asia 2018」を取材した「Mogura」の記事にもあるとおり、バーチャルカメラは『ブレードランナー2049』(Blade Runner 2049,2017年)などの話題作の映像でも用いられており、従来のCG映像での制作に比較して格段に簡単に、自在な映像(カメラワーク)が実現できるという。現実と見紛うばかりのバーチャルなCG世界を、現実のカメラマンの手のバーチャルカメラで動きを設計することにより、まさにGo Pro映画以上に物理法則を気にしない、自由自在なカメラワークがいくらでも実現できることになる。他方のXRカメラとは、360度と180度ステレオ(VR180)を手軽に切り替え、SNSでもシェア可能な新型カメラのこと。いずれにせよ、バーチャルカメラプロダクションとリアルタイムレンダリングが組みあわさったバーチャルカメラシステムやXRカメラは、今後の映画の表現に少なからぬ影響を与えていくだろう。