空間演出ユニットhuez「3.5次元のライブ演出」 tofubeats『RUN』release partyの仕掛けを解説(前編)

 tofubeats『RUN』releas party 演出レポート【前編】

セットリストから物語を想像する

 ”セットリストを脚本として捉える、可視化する” というのは、演劇的にいえば、最初にあがってきた脚本はただのテキストでしかありません。そこに役者さんのセリフの声がのり、動きや表情がつき、照明がのり、音響がのり、というト書きを書くのがhuezの役目です。例えば、Aが寂しそうな顔をしてうつむく、というト書きを、脚本のセリフの後に付け加えていくような作業です。

 ライブでいえば、まず受け取ったセットリスト=脚本に、照明、レーザー、映像およびLED、テクニカル、暗転の間だったりと、どういうものを入れるかを、自分たちになりに考えて、可視化していく。例えば、この楽曲は照明が青なんじゃないか、VJだったら電車の素材がいいんじゃないか、レーザーだったら、緑色の線が出るとか、というのを楽曲を聞き込んで考える、ということ、それが可視化です。

 YAVAOの “物語論をライブの構成として応用する” というときの ”日常・非日常・日常” というのは、ベタに映画とかでいう物語の構成、起承転結のようなもので、もっと砕くと、盛り上げ方、その波です。

 ライブがはじまった瞬間を0、盛り上がってるところを100、静かなところをマイナス100と捉えると、YAVAOは、0からだんだんと100に向かって、そしてだんだんとマイナス100に落ちていって、最後0に戻す、というすごく美しい波を描くんです。物語のなかでも王道と呼ばれているものを好んでプランニングをするんですね。

 ただYAVAOは、同時にプレイヤーとして、映像のシステムをエンジニアリングしたりもしています。YAVAOの大枠のプランニングに対して、そのほかの照明、レーザー、VJとか、セクション毎のプランが同時に出てきたとき、本人も引き算、足し算をして、加減を決めているんですが、本当に今回のライブにおいて、その可視化が噛み合ってるかどうかを客観的に確かめて調整することが演出の仕事だと思っていて、そこの判断やクオリティは僕が責任を担います。

Photo by Jun Yokoyama

セットリストのピークを考える

 今回、YAVAOが、ピークのつくり込みを頼んだYAMAGEは、huezにおいて、レーザーのデザインとプランニングを担っている人間です。これまでに可視化という言葉を何度か出しましたが、彼はまさに、楽曲の音を可視化することができる人間です。分かりやすくいえば音ハメですね。

 音楽って、特にDTMっていろんな音の素材でできている塊なんです。そのなかの音、例えばハイハットの音、クラック音、ドラムのドンって音、ピアノの音とかをキャッチして、どの音をどのレーザーに当てはめるのかを、コンマ単位で作り込んでいきます。実際に彼のレーザーのタイムラインを見ると、ほぼ音楽をつくってる人がつくってるトラックと変わらないくらいのレーザーが打ち込まれているんです。

YAMAGEがレーザーのタイムラインを作成したソフトウェア画面

 今回の「THIS CITY」のピークでは、レーザーを立てる、それ以外はなるべく引く。音でいったら、キックとスネアが刻まれて、だんだん盛り上がっていったところで、いきなり照明も映像も引いて、その決めどころを全部レーザーに渡す、というつくり方をしました。

 「THIS CITY」は、インスト曲で、曲自体もすごく長くて10分くらい。そこでレーザーを10分間出しっぱなしにする、という見せ方でピークをつくりました。正面からステージを見てるだけでもレーザーが飛びかってるし、自分の上を見ればレーザーが出ているし、という状態です。

tofubeats - THIS CITY (live at RUN RELEASE PARTY in Liquidroom, Tokyo)

 今回「THIS CITY」にピークを持ってくるというのは、tofubeats本人からの要望にもありました。「THIS CITY」は『FANTASY CLUB』というアルバムのなかに入ってる曲で、1stワンマンライブのときにもピークとして演出しているんです。tofubeatsが、それを気に入ってくれていたので、それの更新、さらにクオリティを上げたものを見せようと。

 ライブって、当たり前ですが、アーティストは新曲だけをやるわけではなくて、何度も何度も同じ曲をやっていく。その間に、歌い方が変わったり、少しずつ変化させたりしながらクオリティを上げていく。それと同じように、huezも前回より良く見せる、ということを自分たちなりにクオリティを高めてやった、ということです。

(構成=渋都市)

■ tofubeats (トーフビーツ)
1990年生まれ、神戸在住。在学中からインターネット上で活動を行い、2013年にスマッシュヒットした “水星 feat.オノマトペ大臣“ を収録したアルバム『lost decade』を自主制作で発売。同年『Don't Stop The Music』でメジャーデビュー。森高千里、藤井隆、DreamAmi等をゲストに迎えて楽曲を制作し、以降、アルバム『First Album』(14年) 、『POSITIVE』(15年) をリリース。2017年には新曲 “SHOPPINGMALL” “BABY” を連続配信し、アルバム『FANTASY CLUB』をリリース。SMAP、平井堅、Crystal Kayのリミックスやゆずのサウンドプロデュースのほか、BGM制作、CM音楽等のクライアントワークや数誌でのコラム連載等、活動は多岐にわたる。
https://tofubeats.com/

■ huez (ヒューズ)
2011年結成。アート、演劇、工学、映像、身体表現、デザインなど、様々なバックグラウンドをもつメンバーからなる空間演出ユニット。「フレームの変更」をコンセプトに、レーザーやLEDなどの特殊照明によるライブ演出から、MVやガジェットの制作まで、アーティストやオーガナイザーと同じ目線に立ち、その世界観や物語を重視する領域横断的な演出を強みとする。
http://huez.shibucity.com/
https://twitter.com/huez_official

■ としくに
ステージディレクター・演出家。渋都市株式会社代表取締役市長。演劇領域での舞台監督や、メディアパフォーマンスの「インターネットおじさん」などの活動を経て、2016年に渋都市株式会社を設立し、代表取締役に就任。「笑い」と「ホラー」をテーマとして、既存の枠組みを越えた映像・空間演出のディレクションを手掛ける。

■ YAVAO / 小池将樹
VJ・LJ・ステージエンジニア。「身体的感覚の混乱」をキーワードに、デジタルデバイスやゲームシステムの企画・制作をおこなう。2011年にhuezを立ち上げた人物でもあり、現在は、huezのライブ演出の中心人物として、レーザーやLEDなどの特殊照明のプランニングおよびエンジニアリングを担当している。

おまけ:さっぱりぱりぱりぱりじぇんぬ

(Drawing=Sanae Sugai, Text=としくに)

■ Sanae Sugai
https://www.instagram.com/sugaisanae/

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