『レッド・デッド・リデンプション2』と『GTA V』に見た、音楽の新たな可能性
米ロックスター・ゲームス社(以下・ロックスター社)の開発した『レッド・デッド・リデンプション2(RED DEAD REDEMPTION II)』というゲームのサウンドトラックに、ソウル・ヒップホップの大家、ディアンジェロの新曲が収録されている。ディアンジェロは2014年にアルバム『Black Messiah』をリリースして以降新作の発表をしておらず、彼の新作がゲームに収録されたことは驚くべきことだ。
これに限らず、ロックスター社制作のゲームにおいて「音楽」は常に重要なファクターであり、独特の世界観を音楽によって補強してきた。同社を代表するゲームである『グランド・セフト・オート(Grand Theft Auto・以下GTA)』も含め、同社の音楽に対する視点を見ていこう。
音楽の説得力がキャラクターを立体的に見せていく
レッド・デッド・リデンプションシリーズは、ロック・スター社が得意とするオープンワールド型のアクションゲームだ。1800年代のアメリカ西部で、ギャング育てられた主人公を操るゲームで、主人公の振る舞いによっていかようにも変化する世界の中で自身のロールを作っていくことになる。エンディングも複数用意されており、その自由度の高さはオープンワールドならではだ。ゲームハードの限界に迫るような美しく壮大なフィールドと骨太なシナリオを軸に、多様なミニシナリオやサブゲームによって、ユーザを飽きさせない。「PlayStation Network史上最も多く予約されたフルゲーム」であり、現在・世界中でユーザを熱狂させている。
また、ロック・スター社はゲーム内世界に存在する「文化」の描写に注力することで、世界観を強烈に補強しており、特にゲーム内で流れる音楽には、そのこだわりが随所に見られる。今回ディアンジェロの楽曲を収録したのも、そんなこだわりを感じられる部分である。
参考リンク:『レッド・デッド・リデンプション2』の音楽-ROCKSTAR GAMES
虚構と現実を行き来するGTAの音楽たち
ロックスター社は音楽と、そこにある文化を愛しているのだ。同社を代表するゲームといえば、「GTAシリーズ」が挙げられるが、このなかでも「音楽」は大きな役割を果たしている。同ゲームでは車に乗るとカーラジオを操作して、放送局を選ぶことができる。局により流れる音楽も変わり、また流れるほとんどの楽曲は現実世界に存在する曲である。ラジオの機能は過去作から連綿とアップデートされているが、特にGTAの5作目、『GTA V』で大きく進化を果たしており、作品世界を描く重要な要素となった。例えば、GTA Vの主人公の一人・フランクリンは1988年生まれの25才、黒人の若者で、しがないギャングをしながら一攫千金を夢見ている。彼の好きなラジオ局はゲームの舞台・ロスサントス(もちろん、アメリカ西海岸・ロサンゼルスがモデル)の名を冠した「Ros Santos Radio」だ。
ここで流れる多くの音楽がヒップホップであり、主人公・フランクリンは2pacやN.W.A、ケンドリック・ラマーの音楽を聴きながらギャングの世界で成り上がりを目指す。実際に存在するカルチャーがゲーム世界に生きるキャラクターを補強し、世界を立体的に見せている事例と言えるだろう。
GTAVの例しかり、最新作レッド・デッド・リデンプション2の例しかり、虚構のなかに現実世界の文化を取り込んで世界観を補強すること、その強力なツールとして「音楽」を使うことはとても賢くてユニークな方法だ。また、ゲーム内で流れる音楽をユーザが選択できることも画期的だろう。車に乗り、ラジオを付け、放送局を選び、アクセルを踏む。そのゲーム体験の中でユーザは自身のロールを選択し、自然とゲーム世界に没入していくのだ。
そして、虚構世界で展開された現実の音楽たちは、新たな意味を持って現実に帰ってくる。ロック・スター社はApple Musicにチャンネルを持っており、ここではGTAVの中で流れる音楽を放送局別でプレイリストにして提供しているのだ。ゲームの中で車を走らせ聴いた思い出の曲を、今度はあなたのスマートフォンで楽しんでみるのもいいかも知れない。
Appleミュージック
■白石倖介
テック系月刊誌の編集者を経て、フリーライターとして活動中。Mac・iOSに詳しい。最近の興味対象は人工知能・VR・メディアアートなど。趣味は風景撮影。主にTwitterにいます。Twitter/Blog