唯一無二のゲーム機と別れを告げ、シリーズ最大の転換期を迎える『世界樹の迷宮』の今後を考える

 8月2日、アトラスよりニンテンドー3DS用ダンジョンRPG『世界樹の迷宮』シリーズの最新作『世界樹の迷宮X(クロス)』が発売された。

 本作は「クロス」の名が現す通り「集大成」をコンセプトにしており、初代から直近の『世界樹の迷宮V』までのシリーズに登場した職業が全て登場し、ゲーム全体を構成するシステムも過去作の良い所取りとなっている。単に過去作の要素を集めただけでなく、ストーリーと舞台設定は本作独自のもので、難易度にもより手ごわい「ヒロイック」を追加するなど、新たな試みが行われている。

『世界樹の迷宮X(クロス)』 PV#02

 今回の新作で注目すべきは、ニンテンドー3DS用ソフトとして、シリーズ最後の作品になると謳っていることだ。すなわち、今後、同ハードの設計思想を受け継いだ後継機が現れない限り、2画面で遊べる『世界樹』は幕引きとなることを意味する。残念ながら、現時点で確認できる情報を見る限り、そのようなゲーム機が出る可能性は極めて低い。

SQ、胎動。

 そのことを裏付けるかのように、7月28日にはシリーズの公式Twitter上で、次なる『世界樹』が”胎動”していることも発表されている。詳細な内容は不明だが、これまでとは決定的に異なる作品になるのは間違いなさそうだ。気は早いが、新作はどのハードで発売されるのだろうか。

「DS」で育ち続けたがゆえに背負った難題

 単純に考えれば、本シリーズが任天堂のゲーム機で誕生し、育ってきた経緯から、最新作はNintendo Switchで、というのが自然だろう。

 現にアトラスは、同ハード向けに『真・女神転生』の新作の制作を開始している。他社においても、ニンテンドー3DS、ニンテンドーDSでヒットを飛ばした『逆転裁判』(カプコン)の次回作が、Nintendo Switch向けに制作されていることがほのめかされている。また、同様にDSで親しまれてきた『ポケットモンスター』も、今年11月に最新作『ポケットモンスター Let's Go ピカチュウ / Let's Go イーブイ』の発売が予定されており、『世界樹』もその流れに乗るのは、十分あり得る話だ。

 だが、『世界樹』が別ハードに移行するハードルは、『逆裁』や『ポケモン』以上に高い。その理由は、同シリーズは2画面&タッチスクリーンという、唯一無二の特徴を持ったニンテンドーDSというハードで誕生し、育ち続けたタイトルであり、1画面のハード向けに作られたことがまったくないからだ。

 気を抜けば瞬時に全滅する、緊張感抜群の戦闘難易度。スキルポイント制によるパーティ構成と戦略を練る楽しさに満ちた育成システム。迷宮の最深部を目指すことに特化し、語りすぎないストーリー……と、『世界中の迷宮』という作品が持つ個性は多いが、なかでも最も際立つのが、2画面特有のプレイスタイルだ。

 ニンテンドーDSで提示された2画面構成は、「3DダンジョンRPG」というジャンルに革新をもたらした。つまり、迷宮の探索を行う本編と、その全体像を表示したマップを別画面に分割し、双方を見ながら遊ぶという快適な環境を実現させたのだ。『世界樹の迷宮』はそれを最大限に活用し、タッチスクリーン(下画面)に表示されたマップに直接、メモを書き込める要素を取り入れた。往年のダンジョンRPGを遊び込んだプレイヤーが取り組んだ、自由帳などの紙に記録する遊び/攻略を、ゲーム内に取り込んだのだ。それが注目を集め、本作は好評を博した。決してそれだけが本作を人気シリーズに押し上げた要因ではないにせよ、作品を形作る強烈な個性になっていたのは間違いない。

 しかし、Nintendo Switchは1画面であり、他を見渡しても、ニンテンドー3DS以外に、現役で稼働している家庭用ゲーム機で2画面を標準で実装したハードはない。やはり、次回作で2画面という個性が失われることは、確約されているに等しいのだ。

 そうなると、次回作がシリーズにとって大きな転換期になるのは確実。初代の『世界樹の迷宮』が誕生した2007年と比較して、人気を博す3DダンジョンRPGも複数存在しており、「2画面」以外でどのような差別化が計られるのか、アトラスの出す答えを待つしかない。

2画面から1画面への成功例

 他方で、2画面から1画面への移行に成功した例もある。9月27日にNintendo Switch版が発売される、スクウェア・エニックス制作のアクションRPG『すばらしきこのせかい』だ。

『すばらしきこのせかい -Final Remix-』トレーラー]

 同作もニンテンドーDSの特性をフル活用した作品だったが、2012年のiOS版『Solo Remix』で1画面のハードに移行。本作においては、2画面で展開されていた戦闘がうまく1画面に集約され、ファンからも好意的な評価を受けている。『世界樹』においても、アトラスのお家芸とも言えるシビアな攻略難易度を始め、他の特徴を堅持しつつ、新たなインターフェイスで楽しませる作品になる可能性はある。昨今のダンジョンRPGではプレイ画面上の「ミニマップ」の実装が当たり前になっており、その点で差別化を図るのはやはり難しそうだが、期待したいところだ。

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