業界キーパーソンに聞く、音楽プロモーションの未来
サブスク時代におけるメジャーレーベルの役割ーーソニーミュージック梶望にジェイ・コウガミが聞く
「ヒットの見せ方、作り方、定義も変わってくる」(梶)
ジェイ:面白いと思ったのは、例えば、この曲は作業中に聴きたいな、と自分の作業用BGMプレイリストに入れたとします。でも、実はレーベル側は違うイメージでリリースしていたかもしれない。つまり、楽曲を配信した時点でリスナー側が自分の棚の中で整理できるのがプレイリストの面白いところです。同じ楽曲でも様々な解釈の仕方があって、逆に言えば作り手が意図してなかった受け取り方をしているのかもしません。音楽メディアに掲載されるようなリリース情報だけを見ると、バイアスが自然にかかって情報を消費してしまうので、自分にはまるかどうかを音楽を聴かずに決めることができる。ストリーミングはもっとフラットな関係性で音楽情報を聞き分けられるので面白いです。
梶:たしかにそういう場合もありますが、宇多田ヒカルや小袋成彬のように曲を作ったら、あとは受け取る側が自由に受け取ってほしいというスタンスのアーティストもいる。でもアイドルなど、音楽よりも先に人のイメージが先行している場合は、そのイメージをしっかりと押し出さなくてはいけないので、様々なアプローチのケースがあっていいと思うんですよね。サブスクリプションサービスは色々な聴き方をしてもらえる場としてフラットで良いのではないでしょうか。
10年、20年前のプロモーションはとにかく露出の量が大事で、それでヒットを生み出せていたんですが、今は全く通用しなくなってきていて。いつの間にかユーザーが変わって、レーベルやメディアがゴリ押しするものに対してスルーする技術を身につけてしまった。もっと以前は純粋に音楽の送り手側と受け手側がピュアにコミュニケーションができていた時代があったはずなので、ストリーミングサービスのようなものが出てきたことによって、受け手側がまたピュアに受け取れるような、健全な関係に戻ったんだと思います。ただ、昔との1番大きな違いは、情報流通量が膨大になったことと、可処分時間をソシャゲーなど他にとられてしまって音楽に無関心な層が増えていることなんですよね。無関心層に対して、音楽に関心を持ってもらうこともやっていかなくてはいけないと感じています。
ーーストリーミングサービスの登場によってヒットの生まれ方も変わってきてるのかなと思うのですが、いかがでしょう。
ジェイ:梶さんは音楽プロデューサーとしての立場で何をヒットの指標にしますか。売上という部分は当然あるでしょうが、そこに繋がるために色々なステップをどう達成していっていますか?
梶:短期的な見方と長期的な見方で大きく変わると思います。短期的な見方でいうと、先進的な技術やプラットフォームを使って、今回のように「面白そうだぞ」と取り上げてもらったり、新人が世の中に出て行くきっかけをどれだけ作れるか。僕らも勉強しながら、新しいカルチャーを作っていくというのが1つですね。長期的な目標でいうと、僕個人の考えですけど、音楽の送り手側と受け手側、双方がハッピーなのかどうかが大事で。今後、レーベルなどの送り手側だけがハッピーなヒットの作り方やビジネスモデルは淘汰されていくでしょう。ヒットチャートにランクインすることだけが作り手側のハッピーなのか、という価値観も変わってくる。チャートが1位になれば、我々やアーティスト、コアなファンは嬉しいですが、昔ほど世の中全体のお祭り感は感じられなくて。チャンス・ザ・ラッパーのような、我々の知らないところで新しい座組の成功事例が実はたくさんあるんですよね。今の高校生たちが大きくなったら、全く違うビジネスのスキームや、新しい音楽ビジネスの形が見えてくるような気がしていて。そこに我々もどれだけきちんと寄与できるかが大事なんじゃないかな。
ーーメジャーレーベルの役割を再定義するというか、もう一度考え直すという局面でもあるかもしれませんね。
梶:メジャーレーベルでデビューすることに意義を見出していない人たちもいるので、むしろ僕らが存在意義を認めてもらうところまでやらないといけないな、と。今はヒットが量産される時代ではないので、本当にそのアーティストが一緒にやりたい人やチームがあるか、熱量があるかというところでレーベルを決めていると思います。だから僕らレーベル側が魅力的でないと。あぐらかいてるようにも見られがちなんですけど、決してそうではない。ヒットというのは1番わかりやすい幸せな構図ではありますが、ヒットの見せ方、作り方、定義も変わってくると思います。
ジェイ:ストリーミングもいずれ再生回数、いわゆるウェブメディアでいうPVや、YouTubeでいう動画再生回数のようなものを重視する価値観が生まれてくると思うんですよね。そこに対する意識はどうお考えですか。
梶:たしかに定量的な方がわかりやすいし、見やすい。定性的に見るのは難しいです。でも今の時代、定量的にばかり見てしまうと見誤ってしまうことが多い。だから500万回再生されていたら、なぜ500万回聴かれているのか、どんなシチュエーションで誰が聴いているのか、そういう定性的な分析があって初めて次のヒットに繋がっていくはずなんです。AIが人類を超えるまでは、ある程度人が未来の仮説を立てて、定性的に分析したものを次どう仕掛けていくかを考えなきゃいけない、という状況はまだ続く気がします。今はスマートスピーカーのような声がトリガー、スイッチになる時代になってきている。未来はまた変わってくるだろうな、と想像するのが楽しくてしょうがないですね。
(構成=編集部)
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