踊るバイオリニスト、バグパイプの女神、DIYギター……“凄腕”な海外のYouTube演奏家たち
DIYで唸りをあげるスライドギター ジャスティン・ジョンソン
アメリカのDIY文化を象徴する楽器、“Cigar box guitar(シガーボックスギター)”や単弦楽器“Diddley Bow(ディッドレイ・ボウ)”を巧みに操るのが、ジャスティン・ジョンソンだ。
戦前の黒人ブルースマンやジャグバンドを中心に広まったと言われているシガーボックスギターは、自由の発想の中で生まれた楽器であるため、シガー(葉巻)の箱である必要性はなく、オイル缶や車のホイールなど様々なものを流用したスタイルがある。ジャスティンはショベルやスケートボードを使ったギターで、土着的なブルースやカントリーミュージックといったルーツミュージックを、現代的なオルタナティヴロックの解釈を用いながらクールに昇華するスタイルが人気だ。
名も知れぬストリートミュージシャンやとんでもない凄腕プレイヤーが多く集う音楽の聖地・ナッシュビルから、こうしたスタイルのギタリストがネットから注目されるのは、今の時代ならではのYouTubeとアーティストの関係性を物語っている。
演奏もネタのテクニックも絶品 ロブ・スカロン
最後に紹介するのは、シカゴの“変態”マルチプレイヤー、ロブ・スカロン。
かなりのハイテクニックを持つギタリストであり、8弦や9弦といった多弦ギターを用いたプレイも見事なのだが、彼の真骨頂はそこだけではない。ウクレレやバンジョーといった、ロックとは遠いところにある楽器を用いてメタルを演奏することだ。
上記動画ではシタールを。歪ませようと思えば、できないことではないのに、あえてのクリーントーン。演奏も凄まじいが、そんな自分を追い込む男気にしびれる。ユーモアセンスも抜群だし、ネタとしての完成度も高い。
「$1 Guitar」という、もはや安ギターや玩具ギターとも言えない、“ギターの形をした何か”での演奏、キャベツ(Cabbage)のスペルを用いた“C-A-B-B-A-G-E”チューニングを用いた7弦ギターの演奏……もうテクニック云々よりも、ネタをネタとしてどう成立させるか? というところに全力を注いでいる、YouTuberの鑑のようなプレイヤーである。
世界は広い……、ありきたりだがそう思わざるを得ないYouTubeの華麗なる演奏家たち。10年前であれば、出会えなかったアーティストなのかもしれないし、世に出てこなかったアーティストなのかもしれない。誰でも動画を公開することは可能だが、演奏技術はもちろん、それを活かせるか否かはセルフプロデュースの手腕に掛かっているといってもいいだろう。ユーザーの耳も目もより精確になってきている。多様化していく音楽の愉しみ方の中で、奏でる側の表現者たちの方法も変化していくのだ。
■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログ/twitter