DMM VR THEATER ・真島隆大氏インタビュー:ライブ演出に見る日本のテクノロジーの強み

「異文化に対する柔軟性は、日本が世界に誇れる文化」

――劇場としての悩みや課題はありますか。

真島:ライブではなく、映像作品の場合、チケット代や内容の比較対象が、映画になってしまうのが辛いところです。映画より尺が短かったり、チケット代が高いという印象を持たれてしまうので。とはいえ私たちも様々なコンテンツを開催してきましたし、市場的にも「ホログラフィックライブ」が増えてきているので、少しずつ浸透してきた感触はあります。我々だけではなく、皆さんのアイデアでどんどん進化している劇場だと思います。一つ大きな課題は、リアルタイムのインタラクティブ性ですね。『ONE PIECE』では「肉ライト」を使ってキャラクターを応援するという取り組みがありましたが、ステージ上のキャラクターたちはリアルタイムで観客の反応を見て反応できないんです。これはキャラクターライブをやるにあたって、解消していきたいところです。これについては、実際、いろいろな技術を試していたりはします。

 また、アーティストや出演者と客席の距離が遠いというのも改善していきたいですね。紗幕を挟んでいるので、アーティストと客席の温度感に差が出やすいように思います。とはいえ前方のスクリーンとステージ下のLEDが無いと迫力満点な演出ができないので、難しいところですよね。例えば端と端だけ幕があって、真ん中の紗幕をなくしたりすることでアーティストが発する「生の空気感」をお客様に感じてもらうなどの工夫は劇場以外の場所でやる場合はできるかもしれませんね。

――海外生活も経験されてきた真島さんですが、日本と海外のテクノロジーにどんな違いを感じますか。

真島:劇場を見た海外の方々は日本ってすごいね、とおっしゃっています。日本にいると海外の方がすごいものがある、と錯覚しがちですが、日本の技術、そしてテクノロジーの中にある“思いやり”は世界でもトップクラスだと感じています。例えば、車のアシストグリップ。一昔前、海外製の高級車でも離すと勢いよく閉じていましたが、日本は優しくそっと閉まる。また、海外では“アーティスト VS VJ”という構図になりがちですが、日本はアーティストをより魅力的に見せようとVJの方々が個性を殺さず、一つの作品として最大化することを目指しているように感じます。

――逆に海外のライブ演出から学べることはありますか。

真島:イギリスの『Reading and Leeds Festival』はステージが100個以上あったり、規模感が段違いですよね。ベルギーやブラジルの『Tomorrowland』なんかはステージがまるまる一つの世界のような規模の舞台装飾があって…でも日本のフェスはスケジュール管理や環境が優れていて、中にはファミリーで楽しめるものなど、日本ならではの良さがあると思います。それと異文化に対する柔軟性は、日本が世界に誇れる文化ではないかなと思っています。海外では当たり前のように色々な国の人が住んでいますが、それぞれのアイデンティティをしっかり持ってお互いをリスペクトしつつも主張して、悪いケースだと文化の押し付けあいになったりもします。一方日本では柔軟性を持ち自分たちのカルチャーの中に、海外の文化の要素をうまく取り入れる力があるように感じます。

――日本のテクノロジーがより進化していくために必要なものは何でしょう。

真島:『紅白歌合戦』(NHK総合)の椎名林檎さんやPerfumeの演出など、技術的にはSF映画のようなことも可能になるような日が近づいているのではないでしょうか。とはいえ技術的、金銭的な制約もあるので、その中で個人的にはテクノロジーを最大化していくには企画力がとても重要な要素だと思っています。これはプロデューサーやイベンターの方だけではなく、スペシャリストの方々も同様です。芸術的な発想力などはもちろんのこと、コストカットで泣く泣く削らないといけない要素なども、全く異なる技術を用いることで解決できるケースもあると思います。例えば、クロマキー撮影が必要な場合でも、他の簡易的なもので代用できないか、など。

『VRDG+H #3』「北千住デザイン × DÉ DÉ MOUSE」(写真=林響太朗)

――今後挑戦してみたいことはありますか。

真島:個人的には横浜西口を巻き込んだフェスをやってみたいです。やはり、ロケーションビジネスは地域との密着性こそが強みでもあるので。あとはこの劇場の仕組みを野外に持ち出したいですね。ただ、スクリーン一枚、数百万円するので、野外に設置して雨が降ったら大変なことになってしまう。近しい機能を備えた簡易的なものを使うことで可能なのでは、と考えています。例えばUSJの期間限定アトラクション『妖怪ウォッチ・ザ・リアル』でも、このディラッドボードを使っていましたね。東京ディズニーランドの『ホーンテッドマンション』の最後の晩餐会の場面もそうで、実は映像自体はもっと手前にあるんです。『スペースマウンテン』の待機列でもディラッドボードを使って、透過された荷物の中に宇宙人がいるような演出をしています。普段からこういう演出、凄く見てしまうんです(笑)。

 最近ではuchuu,を始め、PAELLAS、yahyel、sui sui duckといったバンドにVJによる映像演出を大切にしているアーティストが増えてきています。その一方で、VJの映像技術を活かせる場所があまりないと感じています。DMM VR THEATERと似た仕組みのステージを野外や別の場所に作ることによって、VJの活躍の場が広がるのではないかな、と思います。

uchuu,

――最後に改めて、劇場の魅力を教えてください。

真島:DMM VR THEATERは常設という形ではどこもやっていない、非常に特殊な会場です。毎公演異なるジャンルを扱っているので、自分の好きなものが一つは見つかる。扱うコンテンツに偏りがないのが魅力ではないでしょうか。キャラクターに“会いに来た”感があったり、他では観ることができないアーティストのパフォーマンスを楽しめる、唯一無二の会場だと思います。4月には朗読劇(『メイクヒーロー DMM VR THEATER Version』)を行う予定です。過去に開催した朗読劇では、映像はあくまでも演出の一環でしたが、『アイカツスターズ!』など様々なキャラクター物を手がけてきた経験を生かし、今回は俳優6人とVRキャラクター6人がコラボして一緒にステージに立ち、キャラクターと人の掛け合いが見られるという、この劇場でしかできない取り組みになると思います。

(取材・文=村上夏菜/メイン写真『VRDG+H #3』「Kezzardrix × Ray Kunimoto」=林響太朗)

■関連リンク
「DMM VR THEATER」公式サイト
「メイクヒーロー DMM VR THEATER Version」公式サイト
HIPLAND MUSIC 「INT」
uchuu,公式サイト

関連記事