『ブラッサム』石橋静河が“母”の苦しみを見事に体現 晩年の“珠”加賀まりこに通じる強さ

NHK連続テレビ小説『ブラッサム』第6週は、珠(石橋静河)の妊娠と死産、札幌への移住が描かれる、怒涛の1週間となった。一方で、珠の心情にフォーカスすると、子どもにまつわる喜びと悲しみが荒波のように押し寄せ、第30話では少しずつ落ち着いていく展開となった。
珠のお腹にやってきた小さな命。思いもしない出来事だったとしても、母になること、お母になることは、珠にとって特別な意味を持っていたのだろう。それは、珠が母・リョウ(国仲涼子)を深く尊敬していたから。珠はリョウのような母親に、リョウのように子どもにまっすぐな愛情を向けられる母親になりたかったのではないだろうか。

北海道行きが決まり、働きはじめたレストランを辞めることになっても、珠は前向きだったように見える。保(金子大地)と子どもとともに生きる、明るい未来だけを見つめていたように思う。
よだれ掛けやおしめ、肌着を、一針一針、愛情を込めて縫っていく。そんな妊娠期間が、子どもへの愛情を増幅させていく。
第27話では、お腹を抱えて休み休み歩いていた珠。NHKの公式発表では、流産ではなく早産とされていることからも、妊娠22週以降の出産で子どもは命を落としたということだろう。すでに胎動を感じていたのかもしれない。
自分のお腹に命が宿っていると実感していたからこそ、その命を失うことは身を切られるようにつらい。自分だけが、悲しみで密閉された空間に閉じ込められたかのように、息が浅くなるほど苦しい。

第28話の珠のセリフを踏まえると、珠は産声をあげない小さくてかわいい自分の赤ちゃんを見たのだろう。目を開けてくれず、動かず、人形のように静かな赤ちゃんを、自分の手で抱いたのかもしれない。
本来幸せなはずの子どもを抱く経験が、珠にとっては絶望の記憶になってしまった。思い出したら泣いてしまう。そんな状態になって当たり前だ。
北海道での暮らしのなかで、珠の悲しみは少しずつ和らいでいく。雪景色や清廉な空気は、珠の心を少しずつ解いていく。

ただ、北海道に来たから珠は立ち直ることができたというわけではないだろう。
いや、立ち直ったというわけではないのかもしれない。子どもの話題を笑顔で受け止めたり、他の子どもの幸せを祈ったりできる優しさと自分の悲しみを上手に同居させることができるようになったのだ。
1年という時間が流れたから、珠は赤ちゃん向けの肌着を繕う仕事を受けることができたのだと思う。
印象的だったのは、自分の子どものために一針一針縫っていたときと同じように、他人の子どもの肌着にも時間をかけていたことだ。他人の子どものために肌着を縫うことは、悲しみを思い起こす行為であると同時に、自分の中に残っている愛情を再び形にする行為でもあったのかもしれない。珠にとって、他人の子の肌着を縫う経験は、母にはなれなくても子どもに愛を向ける人間として、生き直すためのものだったのだろう。

子を宿すことは大きな喜びだ。だからこそ、子を亡くす悲しみも計り知れない。珠はそんな大きな感情を全身で受け止めて、どうにか生き抜いた。心が揺れることを引き受けて、それでも子どもへ愛情を向ける。第30話の最後に、3カ月の赤ちゃんや、やんちゃになったタケ坊(竹林遼)を見つめる珠の表情には、これまでにないしなやかさが見えた。
思い出すのは、第1週の晩年期の珠(加賀まりこ)の姿だ。あの明るさや前向きさ、強さは、深い喪失を経験しながらも他者への愛情を失わずに生きてきた珠の姿なのかもしれない。
本作は珠の人生の山と谷をフラットに描きながら、どんな人生も肯定するドラマになるのだろう。珠の人生の転機となった第6週を見て、改めてそんなことを思った。
■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、高良健吾、金子大地、赤堀雅秋、イッセー尾形、川島潤哉、中村優子、井浦新、遠藤憲一 ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK






















