『ブラッサム』“珠”石橋静河の悲劇はなぜ描かれた? 制作統括が明かす“知られざる部分”

『ブラッサム』珠の悲劇はなぜ描かれた?

 NHK連続テレビ小説『ブラッサム』が現在放送中。自由を求め続けた作家・宇野千代をモデルに、葉野珠(石橋静河)が激動の明治・大正・昭和を生き抜く姿を描く。

 第6週では、妊娠を喜んでいた珠が早産することになる。制作統括の村山峻平は、この展開について「おそらく皆様が最も読まれているであろう『生きて行く私』(宇野千代著)には、そういった描写は一切ないんです。ですが、晩年の作品にふと現れます。かなり晩年の作品なので、それまで触れてこなかった部分をご本人としても『やっぱり書き残しておきたい』と思われた瞬間があったのではないか、と感じたところがありました」と振り返る。

 さらに村山は、「ご自身が表立って言いたいわけではない事柄だったのだとするならば、そこは作品で誰かを勇気づけてきた宇野さんの“知られざる部分”。『生きて行く私』でも宇野さんは子どもに対してとても優しいんですよね。だからこそ、その裏にそうした悲しみがあったのだと描くことには、大きな意味があるんじゃないかと話し合いました」と続ける。

 「ご本人が『花咲かばあさんになりたい』と願い、前向きな作品を作った、その背景にはそうした経験があったのではないかと。『自分も咲き誇りたいし、誰かを咲き誇らせたいんだ』という思いの根底にあったはずの感情を大切にしたいと考えて、このような展開にさせていただきました」

 ドラマとして“宇野千代の人生をどう描くか”については、「85歳の宇野さんが語る物語(『生きて行く私』)は確かに面白いんですが、85歳の境地に達した宇野さんですら、過去のそのとき、その瞬間はとても大変で、いろいろな感情に苛まれたはず。それをすべて封印して、『大丈夫よ』と言えるまでのストローク、ここがドラマになると思いました。そこは見えないところなので、それを今、どう表現するかという創作の難しさがあります」と本音をこぼす。

 史実と創作のバランスに関しては、「そもそも『生きて行く私』が自伝的小説で、80代を迎えた宇野さんが『みんな大丈夫よ』と背中を押す形で書かれたものなので、事実をどの程度小説化しているか、という部分もある。だからこそ、ドラマを作る上でも何割が史実で、何割が創作か、といったことはあまり考えていなくて。宇野さんの言葉やエピソードにリスペクトを持ちながら、今の時代の人たちに“どうしたらそれを自分事としてエンターテインメントに置き換えてもらえるか”というところを探りたい」と語る。

 「宇野千代さんは『小説は誰にでも書ける』というすごく素敵な言葉を残しています。それはすごく重い言葉でもあって、その裏には“誰にも書けない、その人の言葉があるんだ”と意味にもつながります。もちろん時代が変わり、メディアは変わっているけれど、今でも“物語を紡ぐ、言葉にすること”は、みんなに与えられているものです。ドラマを観てくださった視聴者の方にもつながるんじゃないかという思いもあって、『小説は誰にでも書ける』という言葉は、制作チームとしても大切にしています」

 その後、悲しみを抱えて到着した札幌は、10年間空き家だった極寒の地。しかし、正吾(三宅弘城)と浪江(杉田かおる)夫妻ら現地の人々の温かい輪に包まれることで、塞いでいた心は少しずつ和らいでいく。

 以前にも北海道を舞台にした連続テレビ小説『なつぞら』(2019年度前期)を手掛けた経験のある村山は、「北海道の方たちは、とても忍耐がある。厳しい環境をチームで分け合いながら、“一回の失敗なんて失敗じゃない”という不屈の精神で、何度も何度も挑戦して、いろんな豊かさを手にしていく印象がある」と明かす。

 「そうした開拓精神のもとで、諦めずに物事を大切にし続ける姿勢が“明日”へとつながっていく。その空気感に触れることで、塞ぎ込んでいた珠の気持ちが少しずつ解きほぐされ、周囲の輪の中で明るさを取り戻していくのが第6週です」

 北の大地で人々の温もりに触れ、少しずつ前を向き始めた珠。深い悲しみを抱えながらも、周囲に流されてきた彼女が自らの足でどのように未来を選び取っていくのか。これからの歩みを見守りたい。

■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、高良健吾、金子大地、赤堀雅秋、イッセー尾形、川島潤哉、中村優子、井浦新、遠藤憲一 ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK

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