『ブラッサム』“珠”石橋静河の悲しみが雪景色に重なる 母性と自責の念に胸が痛い

『ブラッサム』珠の悲しみが雪景色に重なる

 世界中の悲しみを背負ったかのように、絶望に包まれていても、日常は続く。悲しくて仕方がなくても、山のように積み上がった芋羊かんは嬉しいし、美味しい。でも、ふとしたときにあの光景がよみがえる。

 連続テレビ小説『ブラッサム』(NHK総合)第28話は、珠(石橋静河)の喪失と再起を穏やかに描く回となった。

 早産により、お腹の子を失った珠。身体もまだ回復していない珠は、床に伏せる日々を過ごしていた。子を失った母の悲しみは想像してもしきれないほど、重くて苦しい。それでも珠は、保(金子大地)やマキ(中村優子)、辰五郎(赤堀雅秋)の気遣いに応えるように、少しずつ普通の生活を取り戻そうとする。

 芋羊かんを嬉しそうに食べたのも、お返しに山盛りの里芋の煮っ転がしを作ったのも、珠が前を向こうとしている証だ。改めて、食べること、食事を作ることは生きることなのだと痛感させられる。

 買い物に行き、食事を作り、保と食卓を囲んだ日の夜、珠は初めて子どもに線香をあげることができた。それは、子どもの死を受け入れることと同義だろう。

 ただ、普通の生活に戻って死を受け入れることと、悲しみを乗り越えることは別だ。

 子どもを思って縫っていたものを目にした途端、珠は思い出してしまう。お人形のようにかわいいのに、泣いてくれない小さな赤ちゃん。作中で珠がどのような形で死産となってしまったのかは描かれていないが、珠の「思い出すんよ、毎日」「何をしよっても」というセリフからは、小さな赤ちゃんを抱いた珠の悲痛な思いが伝わってきた。

 珠は、小さな赤ちゃんの姿を思い出すたびに、自分の行動が違えば何かが変わったのではないかと、自分を責めているのだろう。「ごめんなさい」とうずくまりそうになる珠の姿からは、珠のなかに生まれた母性と、だからこそ襲いかかる自責の念の重さが感じられた。

 そんな珠になにかのきっかけを与えようと、保は予定より早く北海道に向かうことを提案。妊娠期間を過ごし、子を亡くした東京に居続けることが、珠に悲しみを思い起こさせてしまうと思ったのかもしれない。少々強引だが、保なりの優しさなのだろう。

 東京とはまったく異なる雪景色、歩きにくい足元、底冷えする板間、凍てつく風。珠は北海道の空気を全身で感じ、ほんの少しだけ顔をほころばせる。珠は喪失感を抱えたまま、別世界へと足を踏み出した。

 珠のモデルとなっている宇野千代は、複数回の妊娠をしているものの流産や死産を経験し、生後間もなく子どもを亡くしたこともある。宇野が積極的に書き残していない喪失感を、本作ではことさら時間をかけたり、言葉を尽くしたりはせずとも、抑制の効いた演出によって、そこに確かに存在する大きな悲しみを描いている。

 人生は出会いと別れ、喜びと悲しみの繰り返しだ。そうやって行ったり来たりしながら、生きていくしかない。人生の山も谷もフラットに描く本作の姿勢が見える回だった。

■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、高良健吾、金子大地、赤堀雅秋、イッセー尾形、川島潤哉、中村優子、井浦新、遠藤憲一 ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK

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