『ブラッサム』“珠”石橋静河はなぜ岩国を去るしかなかったのか “ふしだら”が奪った居場所

『ブラッサム』珠が岩国を離れた理由

 父も世間から放蕩無頼と言われて苦しかったのかもしれないと、珠は想像する。珠自身、落ちた包丁を手にしただけで「包丁を振り回した」と尾ひれをつけて噂された。やってもいないことをやったように言われ、他人とはいかに無責任なものだと思い知っただろう。ただ、清治の場合は本当に包丁を振り回したし、生前かなり自由奔放に生きていたのは事実だ。

 余計なお世話ではあるが、珠に助言したいのは、父と自分を同じように考えてはいけないということだ。もしかして、珠は他者にやさしすぎるのではないか。よいほうに考えすぎてしまうのではないか。モデルの宇野千代のように、珠が今後多くの男性と関係をもっていくとしたら、その情にほだされやすいところが原因になるのではないか。そんなことも筆者は想像する。

 脚本の櫻井剛は、モチーフをつないでいくことや、登場人物の因果関係を破綻なく書き込むことが巧い。第4週では、リョウの母心を印象づけるため、珠の幼なじみの梅(松本穂香)の母・岩田カツ(楠見薫)の母心も描く。嫁いだ梅が姑にいびられていることに、カツは心を痛めている。母は娘に幸せであってほしいものなのだ。

 リョウは珠と血のつながらない義母だが、ふたりの絆は極めて強い。また、珠の元姑・照子(山田真歩)もからっとした人で、珠が家から逃げたことを根に持たず、今度は元夫の弟・保(金子大地)との縁談(?)を勧めてくる。赤の他人は無責任で冷たいが、家族は助け合っているという、やや極端な描き方にも思えるが、照子の描き方は救いがある。

 大正5年9月、岩国での家族最後の夕食で、珠の弟・守(中須翔真)が率先して『春が来た』を歌い出す。第3週で珠が歌っていた歌だ。第11話では楽しそうに、第15話では島村にふられて絶望的に歌っていた。それが第20話では家族の思い出になる。そこはスローモーションになり、かけがえのない岩国の思い出として刻まれる。

 さて、ドラマはこれまで、珠が作家になる気配を描いてきた。同時に、ファッション関連の仕事をする気配も感じさせる。珠のモデルの宇野千代は、ファッション雑誌を創刊するほどファッションに敏感だった。珠自身も裁縫が得意だ。リョウが珠の幼い日の着物をほどいてかばんに仕立て直したような工夫も、珠にいい影響を与えていくのだろう。当時はいまほど物が手に入らなかっただろうから、こうしてひとつひとつ物を大事にしていたのだと思う。母の想いと珠の未来がそっと結びついている。そうした細やかな描写に好感がもてる。

■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、金子大地、山田真歩、三浦誠己、八嶋智人、国仲涼子ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK

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