『ブラッサム』“珠”石橋静河はなぜ岩国を去るしかなかったのか “ふしだら”が奪った居場所

リョウ(国仲涼子)に背中を押されて、珠(石橋静河)は岩国を出て東京に向かった。朝ドラこと連続テレビ小説『ブラッサム』(NHK総合)第4週「岩国と、共に」(演出:野田雄介)では、珠の恋愛が「ふしだら」扱いされた出来事があとを引く。悪い噂が街中に広まり、職も見つからず、暮らしづらくなる。本家の酒蔵で働けるようになったが、そこも噂のせいで続けられない。家族のためにも、こんな逆境に負けたくないと意地を張る珠に、リョウは「逃げてええよ」「負けてもええじゃないの」と言う。

リョウは逃げなかった人だ。親ほど年の離れた清治(渡部篤郎)の妻になり、子育てに追われながら、夫の放蕩無頼な言動に耐え続けた。それも、珠をはじめとした子どもたちのためだったのではないかと思う。幸いというのもなんだが、清治が亡くなってからは、お金には多少苦労したかもしれないが、珠たちと穏やかに暮らすことができた。彼女が珠に我慢しない生き方を勧めたのは、自分にできなかったことを珠にはやってほしかったからかもしれない。この時代、逃げ場のなかった女性のほうが多かっただろう。
旅立ちの日、リョウは珠の幼い日の着物でかばん(袋?)を作り、持たせる。この着物は珠の実母が縫ったもので、リョウが葉野家に嫁いできたときに幼い珠が着ていた。その縫い目に母の深い愛情を感じたリョウは、処分できずにずっととっておいたのだ(第18話)。それを珠の旅立ちにあたり、ほどいて新たに作り直した。
ほとんど記憶のない生みの親と、長年苦楽を共にした育ての親――ふたりの母の思いを抱えて、珠は旅立つ。

リョウに助言された翌朝だろうか、珠は長年暮らした家の玄関の前に立ち、ふとしゃがんでもの思いに耽っていた。このときの石橋静河は、表情を抑えながらも、心のうちでさまざまな思いを巡らせているように見える。しゃがんで小さくなることで、子どもの頃の記憶をたどっているのかもしれないと想像も膨らむ。この家には、幼いながらもがんばっていた少女時代の記憶が詰まっている。石橋静河は背が高いぶん、しゃがんだときの落差が生きる。
珠は縁側で父のことも思う。縁側は父の定位置だった。ある晩、そこで俯いていた父に、少女の珠は「放蕩無頼」とは違う顔を見た。それが彼女の文学の目覚めだった(第1週)。



















