『いろはの恋は時代をかける』が踏み込む教育現場の厳しさ 向井康二の演技が胸に迫る

ただ、生琉にもっと真剣になれと言うのは、あまりに酷だ。彼も、子どもの心に残る先生になりたかった一人。前任校では喧嘩の仲裁中に女子児童の顔へ手が当たり、心配してつい体に触れた行為も問題視された。転任先でも、保護者対応をはじめ、授業以外の業務に追われている。子どもと向き合いたくても、そのための時間や気力が削られていく日々なのだ。
ガラスが割れた件でも、校長の塚本(YOU)は生琉の責任ではないとしながら、過去を持ち出し、保護者に誤解されないよう釘を刺す。危険を止めようとしても、注意の仕方を問われる苦しさ。かといって、放置して怪我人が出れば、なぜ止めなかったのかと責められかねない。これでは、「無難」「無関係」を掲げたくなるのも無理はないだろう。「他人の痛みまでは背負えない」という独白には、他者を気遣う余裕さえ失いつつある、現代を生きる人々の疲れがにじんでいた。

それでも、児童の危険を前にすれば、生琉はためらわず動く。「危ない!」と叫び、校舎の外へ必死に走る向井の表情は、確かに教師の顔だ。一方、謝りに来た児童には目線を合わせ、「謝ってくれてありがとう。これから気をつけて」と穏やかに応じていた。甘いと思う人もいるかもしれないが、自分が責められた苛立ちをぶつけず、子どもの謝罪を真っ直ぐに受け止められるところも、彼の美点ではないか。
そんな生琉がいろはに明かすのは、不登校の子も含め、全ての児童の命を守りたいという願い。それを「絶対にして究極の目標」と語る生琉の顔には、照れくささと誇らしさが同居していた。普段はぼやきや諦めに隠れている思いが、ふとあふれ出る。理想どおりの教師にはなれなくても、命を預かる者としての義務は手放さない。その覚悟を、力まずに伝える向井の演技が胸に迫った。

「お天道様は変わらねえじゃねえか」と、時代を越えて続く暮らしを喜んでいたいろは。人々の価値観は変わり、生琉は彼女の知らない苦しさを抱えている。それでも、子どもを守りたいという思いは伝わったのだろう。「カッコいい」と微笑むいろはと、思いがけない称賛に動揺する生琉がなんとも愛おしい。けれど、いろはがいつか江戸へ帰るかもしれないと思うと、二人の距離が近づくうれしさに、早くも切なさが混じる。ラストに一瞬だけ登場した、佐伯凜花(剛力彩芽)と生琉の関係も気になるところ。教育現場の厳しさに踏み込みながら、ラブストーリーとしても動き始めた本作は、ここからさらに見応えを増していきそうだ。
■放送情報
火曜ドラマ『いろはの恋は時代をかける』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:上白石萌音、向井康二、山中柔太朗、大森元貴、剛力彩芽、大西礼芳、白山乃愛、YOU、イモトアヤコ、保田圭、竹財輝之助、柳ゆり菜ほか
脚本:長田育恵
演出:田中健太、福田亮介
音楽:Ken Arai
主題歌:MISIA「さよならばっか」
プロデューサー:宮﨑真佐子、松本明子
協力プロデューサー:阿部愛沙美
編成:渡邊晏夏、関川友理
製作:TBSスパークル、TBS
©TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/koitoki_tbs/
公式X(旧Twitter):@koitoki_tbs





















