『会社員』の緊迫の世界観はいかにして生まれた? 脚本家4人が明かす共同執筆の裏側

吉田羊が主演するドラマ10『会社員』が現在NHK総合にて放送中だ。KZGCという大手企業のコーポレートデザイン本部長で、取締役昇進を目前にした宮木英理子。届いた1通の匿名の脅迫文が、その足元を崩していく、全8回のオフィス・サスペンスだ。
脚本を書いたのは、名嘉友美、松井周、あさか友恵、縦谷宗の4人。複数の書き手が同じ部屋に集まり、議論を重ねながら連続ドラマを書き上げるNHKの「WDR(Writers' Development Room)」から生まれた、第2弾にあたる作品だ。原案はあさか。
劇団を拠点に書いてきた松井、海外ドラマを浴びるように観てきた名嘉、会社に勤めながらアニメやウェブ小説も書いてきたあさか、ゲーム業界から来た縦谷。立っている場所がまるで違う4人は、ハラスメントという題材に何を持ち寄ったのか。
「3行」から始まった――50歳の部長と、若い派遣社員

――原案は、あさかさんの3行のログラインからスタートしたと伺いました。その時点では、どんなことが書かれていたんですか?
あさか友恵(以下:あさか):実は大きくは変わっていないんですよ。昇進を目前にした50歳の女性部長が、隠蔽を行って、それをもとに若い派遣社員から脅迫される。そのあと何をするのかは今後の展開に関わるので言えないんですが。その3行のログラインをもとにして、第1回のパイロット版を執筆したという形でした。
――その段階で、ハラスメントを題材にすることは決まっていた。
あさか:はい。ただ、その後、ハラスメントの中身や、受けた被害や被害者像というところは、皆さんと話し合っていく中でだいぶ変わっていきました。
――WDRプロジェクト第二弾では、一緒にやってきた9人の中からこの4人が選ばれたんですよね。名嘉さんと松井さんは『3000万』(NHK総合)に続いて2度目のWDRプロジェクトです。この4人に決まったときは、どう思われました?
松井周(以下:松井):うれしかったですね。『3000万』でやっていたチームライティングが非常に楽しかったので、また参加できる。しかも新しい人も含めて。名嘉さんは知っている人なので、これはまた楽しくできるだろうなと、最初から思っていましたね。
名嘉友美(以下:名嘉):私も『3000万』がとっても楽しかったので、またチームライティングできるというのはすごくうれしくて。メンバーが変わるといろいろ変わるだろうなということも、すごく楽しみにしていました。
――9人の中からこの4人に決まった経緯は、皆さん聞かされていなかったそうですね。
あさか:それは知らなかったです。基本的には制作統括の上田明子さんのほうでバランスなど考えて決められたと聞いています。
――あさかさんは、チームライティングが初めてで、しかも原案の担当にもなりました。
あさか:もちろんワクワクもしながら、まだ1話分しか見えていない状態で、そこからほぼ一から4人で再構築するんだというところに、不安もありました。でも、9人でプロジェクトをやっていた頃から一緒だったメンバーですので、ぜひと思った方たちに集まっていただけたのがうれしくて、楽しみでもありました。
「渡りに船みたいな感じで」――ゲーム業界からの応募

――縦谷さんは、もともとライターズルームに参加したいと思っていらしたとか。
縦谷宗(以下:縦谷):海外ドラマが好きで、ドキドキする展開とか、続きが気になって徹夜して観ちゃう作りはどうなってるのかなという興味と、自分自身も書いてみたいという気持ちがあって。ライターズルームも海外では普通だと知っていて、参加したいなと思っていたんです。でも、テレビドラマには全然関係ない仕事をしているので、そんな機会ないだろうと思っていたところ、渡りに船のようにWDRの募集を見つけて、一瞬で応募を決めましたね。
会社を知らない2人と、会社の中にいる2人
――4人のうち、あさかさんと縦谷さんは会社勤めです。題材が「会社員」であることは、どう効きましたか?
松井:僕と名嘉さんは劇団とか、会社と関係ないところで生きてきたんですけど、お二人は会社に勤めてらっしゃるから。この題材でいうと、僕たちが知らない知識を持ってらっしゃるので、すごく参考になる。実際に「会社ってそうなんだ!」と学ぶことも多かったなと思います。
名嘉:本当にそうですね。自分からは絶対出ないなと思う会社の決まり事など教えてもらったので、非常に助かりました。
――例えば、どんなものでしたか?
あさか:そもそも英理子が、外から見ると明らかに変なことなのに、やらざるを得ない。そういう心境の立て方は、会社の中にいるとよくわかります。要は、自分が思ってないことをやらなきゃいけなくなるという感覚で。会社という場所の奇妙さは、ちょっと面白がっていただけたのかなとは思います。
松井:上司が言っていることを、口を挟まずとにかく聞いている時間があるとか。何か絶対的なルールみたいなものがあるんだなと。演劇だと聞きたいことを聞くので、口を挟まず聞くみたいな感覚は、わからなかったりもしましたね。
名嘉:会社という組織の中での出世欲とか、そういうものもが自分にはわからないので、面白いなと思いました。
4人のすり合わせで生まれた英理子の口調
――第1回を観た範囲では、英理子の言動は間違いだらけでした。でも、「あなたならわかるだろうけど」と「あなたには理解できないと思うけど」という逆の言い回しを、都合よく使いながら、いかにも正論のように相手を追い詰めていく感じがすごくリアルで。あのリアリティは、どう作られたんでしょうか?
名嘉:確かに、ニュースになっている不祥事やハラスメントについても読んだり見たりしました。会社の中の独特のルールというか、そういうことを言えちゃう空気みたいなものの下で会社組織はできているんだろうなと。一般社会ではありえないことでも、会社という閉じた世界の中だとまかり通る部分があるのかもしれないなと思ったんですよね。
――会社だけでなく、人と人が集まる場所、家庭などでも同じようなことが起こっていそうです。私が夫に言う物言いにも近いものがありました(苦笑)。
名嘉:強烈なキャラクターのほうが面白いだろうと思って(笑)。「英理子ってどういうキャラクターなんだろう」ということは、何度も何度も話し合いを重ねました。だいたい理解できてきたら、「これ言われたらキツイだろうな」とか思う言葉もどんどん出てきた。でも、あまりきついと他の方からフィードバックを受けます。「さすがにここまでは」と。ただ私は極端な方が好きなので、結構残してもらったと思うんですけど。
松井:英理子が「最初から嫌われすぎちゃうと困るかも」というのは、どこかでみんな思っていたかなと。
――人物像は、どうやってすり合わせていったんですか?
松井:まず、あさかさんが考える英理子のこれまでの生涯、「いつ結婚してどうしたか」みたいなことまで全部書いてきてもらって、みんなで見たり。途中で変わった部分もありますが、共有しているものはずっと蓄積されて、「多分こんな感じだろう」という共通認識ができてきた。でも、自分が書いた英理子の口調は、さりげなく皆さんから違和感を表明されもしたので、少しずつ修正しました(笑)。
るりの怒りは、どこから来たのか

――英理子と対峙する斉藤るり(南沙良)の人物像も、あさかさんの原案からですか?
あさか:そうですね。でもるりに関しても、どこでアルバイトしているか、どういう日々を過ごしているのかといった細かい設定は、皆で一から考え直しました。彼女の目的やこの後明らかになっていく過去については、意見を出し合っていただいたり。るりの怒りの源は何なのか、なんでこういうことをするのかを確認しながら進めていました。
松井:るりは、あさかさんの案のときからずっと暴れていて。多分それは、あさかさんが持たれている怒りみたいなものが根っこにあって、常に何かに怒っているんですね。英理子と対峙したときに、英理子は地位とかいろんなものを手に入れているけど、るりは逆に何ももってない。といった感じで関係性を作っていきました。じゃあ、なんでこんなにるりは怒っているんだろうというところで、また背景のキャラクターシートみたいなものがだんだん出来上がっていった。僕は、名嘉さんが書いてきた過去のあるシーンがヒントになって。るりの中で、ある種の強迫観念的なものが形成されているんだろうなというのが、シーンのディテールから「あ、そうか」と腑に落ちた。そういう過去があったと決まると、途端に、るりが暴れている行動がすごく納得のいくものに見えてきて。それをもとに、またるりの行動が決まってくる。そういう感じでしたね。
――正義感で告発する人のようで、るり自身の行動もなかなかやばい、暴走ですよね。
あさか:るりが絶対的に正しいキャラクターだとは、多分全員思っていなくて。それこそ「何が正しいのか」みたいな話になってくるのかなと思います。
縦谷:どこまで暴れさせるかはちょっと難しくて。「るり、やりすぎじゃないか」というときに調整することはよくあったかなと思います。もっと極端なことをしている案もあったんですけど。
あさか:さすがにるりがやっていることについて、「これは二次加害になっちゃうんじゃないか」という指摘を受けて直すこともありました。題材がハラスメントだということもあるので、その塩梅、バランスは気をつけて描くようにはしていましたね。
「僕は、個人より全体を優先して良しと思ったときがあった」

――資料や参考文献、ニュースでも勉強されたそうですね。ハラスメントの受け止め方は、4人の間でもそれぞれ違う部分があったのでは。
松井:僕も書いていて思ったんですけど、自分が考えている正しさが、他の人とは違うこともあって。例えば、立場が上の人が全体を思って、良かれと思ってする行動や提案が、実は個人を無視していたり。それによって傷ついた人がいることをわかってはいるけど「でも他の人もそうだからね」みたいな。自分自身が、全体が良い状態になることのほうを重視して、個人を軽視してしまっていることもあるかもしれないと気づいたときがあったんですよね。「そういうふうにしか解決できなくない?」って思ってしまっていた。
――松井さんは劇団の主宰として、まとめる立場でもありますしね。
松井:全体としてはこうするという決断をせざるを得ないときに、デメリットを被る人へのフォローはちゃんとしたのか、「しないでもわかるでしょ」で終わらせてしまった場合もあったよなとか。全体が良くなるようにすることが、個人を傷つけてしまう。その配慮や目配りが自分に抜けていたな、と思い知るというか。それは自分の偏見に気づくというか、自分でショックだった点ですね。
あさか:私も会社に勤めている中で、会社としてはこうするしかないというときに、ある種の暴力性を自分の中でも内面化してしまっているなと感じることが、ままあって。上が決めたことなんだからという気持ちは、誰しもあるのではないか。組織にいるいないにかかわらず、ルールを内面化してしまうことはやっぱりある。そこから派生して、こういった不祥事が起こったりもするのではないか。これは悪人たちが起こした不祥事だとか、「悪いやつだったから悪いことをしたんだ」っていう話ではないよねというところは、共通して話した記憶がありますね。
――第1回に、英理子がハラスメントを訴えた部下の診断書をシュレッダーにかける場面がありましたね。あれはわかりやすくダメですが(笑)。
名嘉:私は会社員の経験はないですけれども、「ここで生きていくんだから」ということで、多分シュレッダーにかけちゃうかも?(笑)。そこまでしなかったとしても、おかしなことに対して立ち上がって「間違ってます」みたいなことは絶対言わないし、言えない。黙ると思う。
縦谷:ハラスメントの感覚って、最初はそれぞれちょっとずつ違ったのかなと。世代も違いますし。みんなが「俺はこう思う」「私はこう思う」とリアクションをくれる中で、なんとなくここら辺のラインみたいなのが出来上がっていった。ハラスメントが問題になる山岸(小久保寿人)のセリフ一つ取っても、どれぐらいガツッといくのか、引いた言い方か、表向きは丁寧だけど嫌味っぽく言うのか。そうしたニュアンスを絶妙に積み上げながら作っていった感じですかね。



















