『ブラッサム』“清治”渡部篤郎はなぜここまで強烈なのか 宇野千代が残した父の“伝説”

『ブラッサム』なぜ父を強烈にしたのか

 清治は弟と話をしながら、お椀のなかにひよこを隠して蓋をし、開けてびっくりさせるといういたずらをする。かごのなかのカナリア、お椀のなかのひよこ。どちらも閉じ込められているものの象徴だ。このひよこのいたずらは、宇野の父が実際にやったことらしい。ただし宇野千代は、これはあくまで父のために作られた伝説ではないかと『生きて行く私』に書いている。風変わりな人物ではあったが、みな父に畏敬の念をもっていた、とも。この冷静な視点を読むと、宇野千代自身もまた、自分のことを伝説化して盛って話していたのではないかという気がしてくる。

 例えば、『あさイチ』(NHK総合)で宇野千代の昔の映像が放送された際、父に雪のなかを裸足で歩かされたという話を語っていた。ああ、これが第1話の雨のなか買い物にいかせた話として描かれたのかなと筆者は思った。これも宇野千代自身が、父をおもしろく伝説化している可能性がある。作家とはまるで見てきたような嘘が得意なのだから。

 『生きて行く私』のなかに「私は父に代わって、あの瞬間の父を語ってやりたいのである」という一文がある。「あの瞬間」については、ドラマではまだ描かれていない。ただ、宇野がそういうふうに父のことを思っているとすれば、彼に関するほかの文章もまた父に代わって語ったものであり、多少盛って劇的に仕立てていてもおかしくはないだろう。

 ドラマでは、ある晩、月明かりを浴び、桜の木を背景にカナリアを見つめる父の横顔に、珠が目を奪われる。渾身の美しい画だった。珠はそれを学校の宿題の作文に書く。父を知る者は自分も含め「放蕩無頼」「横道無頼」のイメージで見ていたが、その夜の父について「そこに放蕩無頼の徒は見つかりませんでした」と書いて父を喜ばせる。清治は、自分がこれまで隠してきた、放蕩無頼ではない繊細な面を娘に気づいてもらって嬉しかったのだろう。

 もしかして、弟に家督を譲ったのは彼の思いやりだと気づいてほしかったのに、誰もねぎらってくれないから苛立っていたりして?

 珠に買いにいかせた、「イカとわけぎのぬたあえ、メバルとたけのこの煮つけ、かぶのふろふき」は、なかなかセンスのいいセレクトだった(料理監修はBK朝ドラといったらこの人、広里貴子)。老舗の造り酒屋のぼんぼんで、目利きなのだろう。そしてたぶん、それが珠のセンスのよさとして受け継がれているのだと思う。80歳の珠の仕事部屋にある桜柄のふすまは、生家のふすまを思わせるもので、上品ですてきな柄だ。放蕩無頼と見られた父の美意識は、娘のなかで確かに生きている。

 宇野千代は作家業のかたわら、ファッション雑誌を創刊し、着物のデザインも手がけた、ファッションリーダー的な存在でもあったのだ。4度の結婚と離婚を繰り返した恋多き女性として注目されがちだが、その美的センスの高さこそ、ドラマで思う存分見せてほしいと願う。

参照
※ https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/7f20f6857a6224bcf6b546ff61a875cefcb18732

■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、加賀まりこ、松たか子、国仲涼子、渡部篤郎ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK

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