『キリコのタクト~YELL~』鈴木京香が体現する“音楽の力” 歌が“人生の主題歌”になるまで

鈴木京香だからこそ成立した“伝説の音楽教師”キリコ

作品の全体像を把握していただいたところで、キリコについても記してみたい。いやもちろん、彼女が消息不明となった経緯や、現在どうしているのかまでは言及しない。その真相が明かされる瞬間には、ぜひ劇場で立ち会っていただきたいと思う。ここから綴るのは、この作品はキリコという魅力的な教師の存在をなくしては成立しないということ。そして、このキャラクターは主演の鈴木京香の力演があってこそ実現しているものだということだ。
キリコの人物像について、“かなり強引なところがある”と先述した。いくら合唱の魅力を説かれたところで、自分ならばついていかないはずだと腕を組みはじめる観客もいるに違いない。筆者もやや訝しく思ってしまったのが正直なところだ。しかし、たちまち納得させられることになる。この人の言うことを、少し信じてみてもいいのかもしれない。いや、この人の言うことだったら信じられる。合唱に馴染みのなかった方でも、やがてそう心変わりすることになるだろう。音楽の力を信じるキリコは、いつも自信に満ち溢れている。どんなときでも暗い顔を見せはしない。とても情熱的な人だが、生徒たちに対して熱血指導をすることはない。にこやかで、パワフル。『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年)に憧れる彼女は、ただ純粋に音楽の持つ可能性を信じている。この信じる想いの強さに、翔たちも、そしてきっと客席にいる私たちも、強く惹かれていくのだ。
これを体現しているのが、主演の鈴木である。朝ドラ『君の名は』(1991年〜1992年/NHK総合)で主演を務めた経験もある彼女は、以来ずっと、国民的俳優のひとりとしてキャリアを築き上げてきた。2020年代に入ってからは、同じく朝ドラ『おかえりモネ』(2021年度前期)でヒロインの母を演じていたことが記憶に新しく、『御手洗家、炎上する』(2023年/Netflix)での狂気的な演技に圧倒されたものだ。2024年末に公開された映画『グランメゾン・パリ』ではドラマ版に引き続き作品の柱となり、大ヒット作に。2025年は『栄光のバックホーム』で病に冒されながらも野球に打ち込もうとする主人公の母を好演し、こちらも大きな話題を呼んだ。時代を越えて、名作には鈴木京香あり、である。

この『キリコのタクト〜YELL〜』は、タイトルロールを演じる彼女の存在がなくては成立しない。劇中の鈴木のハリのある声を耳にしていると、ふっと肩の力が抜けるのと同時に背筋がピンと伸びる。困難を前にしても力強く立ち回ろうとするその姿に触れていると、自然と前向きな気持ちが込み上げてくる。“この人の言うことだったら信じられる”と先述したが、それはキリコを演じているのが鈴木だからにほかならない。数十年にわたって国民的俳優であり続ける彼女の胆大心小な力演が、映画の世界の住人であるキリコという人間の言動に説得力をもたらしているのだ。そして、主演俳優の演技はそのまま、作品の持つ力とイコールで結ばれているのである。
本作を彩る音楽は、いきものがかりの「YELL」だけではない。翔を演じる藤原大祐といえば、シンガーソングライターでもある。そんな彼が手がけた「白鳥」が劇中歌に採用されていることが、作品に深みをもたらしている。そして、主題歌の「孤独なハーモニー」を歌い上げているのは、前田亘輝(TUBE)と仲川瑠夏(FRUITS ZIPPER)のデュオだ。歌が終わると、再び劇場の明かりが灯る。そしてそこから、私たち観客の人生が再開する。キリコの教えを胸に、この楽曲はあなたの新たな主題歌にだってなるかもしれない。
■公開情報
『キリコのタクト~YELL~』
全国公開中
出演:鈴木京香、藤原大祐、井頭愛海、田辺桃子、西垣匠、榊原郁恵、小西博之、大島さと子、四方堂亘、小泉今日子、宅麻伸、名取裕子
監督・脚本:雑賀俊朗
主題歌:「孤独なハーモニー」前田亘輝(TUBE)×仲川瑠夏(FRUITS ZIPPER)
挿入歌:「白鳥」藤原大祐
エグゼクティブ・プロデューサー:神品信市
プロデューサー:藤田修、濱口典子、竹森昌弘、西村克也
配給:KeyHolder Pictures
製作:ミライ・ピクチャーズ・ジャパン、サーフ・エンターティメント
©映画「キリコのタクト~YELL~」製作委員会
公式サイト:https://surf-entertainment.com/kiriko.html
公式X(旧Twitter):https://x.com/kirikoyell






















