KADOKAWA、グループアニメスタジオ合同拠点の制作現場を公開 “没入”の環境を整備
株式会社KADOKAWAが、アニメ・実写領域の制作体制を抜本的に強化する新構想「創る人をつくる。創る所をつくる。」の第1弾として、「Studio One Base(以下、S1B)」を今秋に開設する。同拠点は複数のアニメ制作スタジオを集約し、持続可能なアニメ制作体制の整備を図るもの。KADOKAWAグループのENGI、Studio KADAN、チップチューン、ベルノックスフィルムズ、レイジングブルの5つのスタジオが参加する。
9月17日には「S1B」の詳細をメディア向けに発表する説明会が開催。クリエイターが実際に作業するデスクを含め、オフィスの内装が明かされた。
実際に制作が行われる現場である「メインスタジオ」棟は、ビジネスオフィスを「創造の流れ」として構築。目的に応じて「Focus(没入)」「Tuning(調律)」「Resonance(共鳴)」の3層に別れたエリアが利用される。
「没入」においてはクリエイター個人が制作に集中するための環境が整えられている。クリエイターが使用するデスクは、一般的な作画・イラスト制作向けデスクの機能を備えつつ、作業内容によって机面の広さを変えることができる。作業時の振動が他のデスクに伝わらないよう、オーダーメイドで独立の可変式デスクが採用されたという。
パーテーションなどには意図的にダークトーンを採用することで、視覚情報を減衰させクリエイターの深い没入状態を誘発する。天井にもモニターの反射を抑えるための間接照明が備え付けられている。
また、アニメ制作で発生する大容量データのやりとりを想定し、ネットワーク基盤として10Gbpsのバックボーンが整備されているという。
「調律」エリアでは、異なる作業担当者や別グループ同士の情報共有や相談が行われる。会議室や個人で利用できるリモートスペースなどが設けられている。共有設備を設置することによって、情報共有を円滑化する仕組みを構築したという。
「共鳴」エリアは社内外の交流を目的としている。グループ会社との打ち合わせや作品の視聴などが行われる。
また、これら3つのエリアを有する「メインスタジオ」棟とは別に設立される、サンシャイン60ビル内「クリエイターアカデミー」棟は、次世代のアニメーター育成を目的とした施設だ。「没入」エリアのデスクと同様の設備や、プロ仕様の試写室が備えられているほか、S1B全体運営を担うマネジメントオフィスが置かれている。
これらの機能を有するS1B設立の経緯について、株式会社Studio One Base代表取締役社長(就任予定)の菊池剛は「映像事業が成長する一方で、クリエイティブの現場に携わる人々が十分な恩恵を享受できていない」「業界に参入する若者が減少している」と課題を述べたうえで、「クリエイティブの人たちが仕事に集中できる環境を作っていく」とS1Bの存在意義を語った。
また、説明会の終盤には、菊池のほか、株式会社KADOKAWA スタジオ事業局 局長・田村淳一郎、豊島区長・高際みゆき、株式会社サンシャインシティ 代表取締役社長・脇英美4名によるディスカッションが実施された。S1Bとアニメ産業への思いや、同拠点から発信される文化のビジョンについて語り合った。
田村は「今までのアニメスタジオのイメージを覆すようなデザインの、新しいスタジオができたことに対して関係者の皆様にはお礼を申し上げたいと思います。いい場所がいい作品を作れるという証明になるような、素敵な作品を作っていきたい」と意気込みを語った。高際も「時代が変わったなというのをすごく感じました。こんなに素晴らしい場所ができるなんて、ちょっと想像を超えています。従来のイメージとしてはすごく狭苦しいところで一生懸命作っていらっしゃるというイメージがあるので、ここで作られる作品がどんなに素晴らしくなるだろうかと、早くも楽しみでワクワクする気持ちになっております」と区長としての期待を述べた。
脇は、アニメ関連グッズがサンシャインシティやその周辺で多数売買されていることに触れながら、「クリエイターさんたちが作ったものが、実際に楽しまれている姿を身近で見ていただけることで、また新しいことが生まれるのではないか」と、サンシャインシティ代表として展望を語った。
また、S1Bの稼働からどのような文化が生まれるかについても各々から期待が述べられた。田村は「アニメの歴史は西武池袋線沿いから始まったと思っております」と、旧東映動画の設立に触れながら「原点に帰ってものづくりができる場所だと思っています。世界中の皆さんに楽しんでいただけるような作品を作っていこうと思っておりますので、いろいろなクリエイターの方が集まってくれるのではないかと期待しております。皆さんにもそう期待していただきたいですし、それに応えられるスタジオにしていきたい」と熱意を語った。
菊池は5つのスタジオが参加することに触れ、「5社それぞれいろいろな個性があるスタジオです。それぞれの得意なジャンル、固有のクリエイティブがクロスオーバーしながら、日本を代表するようなアニメーション作りをプライドを持ってできるような作品を多く生み出していきたい」とコメント。「5社バラバラの環境下で仕事をしている非効率性をどういった形で是正できるのか模索してきたわけなんですけれど、一つの拠点に集まって仕事していくことで、外部の市場環境に左右されないような就労環境を作りたいというの思いに至りました」と、業界の抱える課題とその是正についても語った。「労働環境も人を集めるうえで非常に大きな要因になるだろうと思います。今回のオフィス作りの原点としては、一言でいえばアニメを作る人たちをもっともっと集合させていくということ。アニメ業界はフリーランス主義で、スケジュール調整が難しかったり、それが納期の遅延につながることもある。KADOKAWAとしてはそういう外的な環境に左右されずに、しっかり目の前の作品に集中して制作ができる環境を作りたいなという思いでこのオフィスを設立しました」と、オフィス設計が業界の課題改善にも繋がる旨を説明した。
続けて「KADOKAWAは内製率を50%以上にすることを目標としていますが、Studio One Baseを含めて動画工房、キネマシトラス、大きくいえば元請けスタジオが3社になるわけですけれど、そこでKADOKAWAの作品をたくさん作っていこうという思いがあります。ここ1年が勝負かなと思っておりますので、作品をしっかり予算内とスケジュールで作れる体制を作っていきたい」と、KADOKAWAとしての展望も述べた。
また、高際は「この素敵な拠点が池袋、サンシャイシティに来てくださったことは、練馬区としては本当にありがたいと思っているんです。池袋は漫画・アニメの聖地だと言ってきまして、たくさんのアニメのイベントをやったり、映画館がたくさんあったり、グッズを売ったりしてすごく盛り上がっています。そこに今度は作り手の方が来てくださるって、なんて最強なのかしら、と思っているんですね」熱弁した。続けて脇も「池袋の街はエリアプラットフォームといって、大学や企業、団体が一つの価値共創を目的としていますが、そのテーマが「感動共奏都市~共に創り、共に奏でる~」です。そこに今回S1Bが入っていただいて、期待以外の何物でもなく、非常に楽しく、嬉しく感じている」と、シティプロモーションの視点からS1Bの価値について述べた。
業界大手のKADOKAWAが今回のような独自の事業を開始することで、アニメ産業の今後にさらなる期待が集まることが予想される。