『さよならノワール』最終話が問いかけた“ノワール”の意味 小池栄子がたどり着いた答え
山崎はその後、五十畑(岡部たかし)と面談する。1年前、目を覚ました時にはひどい怪我を負っており、刑事だった頃の記憶は何ひとつ残っていないという。五十畑が示したのは「解離性健忘」の可能性だった。耐え難い出来事から自分を守るため、心が記憶を切り離す。それほどまでに、刑事として経験した出来事が山崎の心に大きな負担を与えていたのかもしれない。
ところが、妹尾と対面した山崎は突然、頭を抱えて苦しみ始める。その中で絞り出すように口にしたのが、“葵”という名前だった。山崎の記憶の断片をきっかけに、紗耶香が妹尾の娘・葵であることも明らかになっていく。
改めて事情を聞かれた葵は、1年前、何年も連絡を取っていなかった父から電話があったことを話す。自分が闇カジノで働いていることを材料に、妹尾は祥仁會から脅されていた。それでも葵は、父親が自分を助けに来てくれると思っていた。ところが妹尾が告げたのは、「お前とは縁を切る」という言葉だった。
前回、葵が何度も自分を「クズ」と呼んでいたことを思い返すと、その言葉の重さも変わってくる。自分を責め続けていた彼女の奥には、助けてほしかった父親から突き放された傷が残っていたのだ。
そして夏海も、山崎に失踪当時のことを話し始める。次第に感情を抑えられなくなる夏海に、山崎は「私はあなたに残酷なことをしたんだね」と語る。夏海が山崎を探し続けてきたのは、単に失踪の真相を知りたかったからではない。あの日を境に止まってしまった自分自身の時間を、もう一度動かしたかったからなのだろう。
妹尾と祥仁會のつながりが見えてくると、これまで動きを止められていた刑事課もようやく本腰を入れる。決め手の一つになったのは、山崎が自宅に残していた捜査記録入りのUSBだった。記憶を失ってもなお、かつての山崎が追っていたものは消えていなかったのだ。その記録をもとに捜査は進み、1カ月後、不二と妹尾は逮捕された。
事件が解決しても、山崎の記憶は戻らなかった。それでも、最近自分の部屋でセピア色になった古い写真を見つけたことを振り返りながら、「忘れることはそう悪いことじゃない」と思ったと穏やかに話す。「刑事だったこと、知らない方が良かったですか?」と尋ねる夏海に返したのは、「山崎創ってヤツは、そう悪いヤツじゃなかったと思えたよ」という言葉だった。すべてを思い出せなくても、かつての自分を少しだけ肯定できるようになった山崎。その言葉を聞いた夏海もまた、山崎との出会いがあったからこそ支援員として今ここにいるのだと、長く胸に抱えていた感謝を伝える。
そしてエンドロールで交わされた鴨居(岡山天音)と絵梨子の会話も、この物語を象徴していた。誰の心の中にも闇はあり、そこから完全に「さよなら」することはできない。それでも絵梨子は、「人生何があるかはわかりません。だからこうしてる今の時間が大切」と話す。過去を消すのではなく、抱えながら今を生きる。その言葉は、山崎にも、夏海にも、これまで支援室を訪れた人々にも重なって見える。
心の中にある「ノワール」と、完全にさよならすることはできないのかもしれない。それでも、過去を抱えたまま誰かと今を生きることはできる。傷ついた経験をなかったことにするのではなく、その人がもう一度自分の人生を歩き始めるまでそばにいる。『さよならノワール』が描いてきた“支援”とは、きっとそういうものだったのだろう。
■配信情報
『さよならノワール』
FOD、Tverにて配信中
出演:小池栄子、北香那、岡山天音、荒川良々、味方良介、濱尾ノリタカ、利重剛、眞島秀和、岡部たかし、浅野和之、戸田恵子、渡部篤郎ほか
脚本:井上由美子
演出:河毛俊作、清矢明子、柳沢凌介
音楽:菊地成孔
主題歌:chilldspot「ドラマ」(RECA Records)
衣装:伊賀大介
心理監修:石橋昭良(臨床心理士/非行臨床研究所)
警察監修:石坂隆昌(ユヌ・ファクトリー)
プロデュース:狩野雄太(スタジオ戦略本部 第1スタジオ ドラマ・映画制作センター)
制作プロデューサー:清家優輝、岸川正史(ファインエンターテイメント)
制作協力:ファインエンターテイメント
制作著作:フジテレビジョン
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/sayonaranoir-cx/
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