『君の好きは無敵』は『西園寺さん』から何を受け継いだ? “好き”を巡る現代の物語に
そんな目に見えない感情を具体的に映し出したのが、キャラクタービジネスという舞台だ。サンリオへの取材を基に、キャラクターコンセプトを決め、ターゲットや売り出し方を考える過程から、SNSでの広報、炎上への対応、人気投票との向き合い方まで、業界の裏側がリアルに描写されていた点も本作の魅力だろう。そこにあったのは、かわいいキャラクターを生み出す華やかさだけではない。本作は、どれほど愛情を込めて生み出したキャラクターでも、商品として成立させ、利益につなげなければならないという、ビジネスのシビアさまで描いていた。
だが、物語が進むにつれて、杏奈と瀬尾の恋愛パートが前面に出るようになる。2人の恋模様も本作を彩る大切な要素であり、TBS火曜ドラマがラブストーリーを軸としてきた枠であることを考えれば、自然な展開ともいえるだろう。その一方で、「2人はビジネスパートナーのままでよかったのでは」という声も上がった。男女のバディが恋愛へ向かう従来の形式そのものが、現代の視聴者にはノイズとして感じられ始めているのかもしれない。キャラクタービジネスの描写が面白かっただけに、恋の行方よりも、2人がチュエラを育て、世の中へ浸透させていく過程をもっと見たかった人も多かったのではないだろうか。
もちろん、本作の魅力は仕事の描写だけではない。瀬尾は誰よりもキャラクターへの愛と才能を持ちながら、納期を守れず、SNSの批判に反論しようとし、生放送では暴走する。そんな人間的に完璧ではない瀬尾を、杏奈たちは見限らず、それぞれの得意なことで支えた。一人で何でも完璧にこなさなくていい。足りないところは誰かに補ってもらえばいい。未熟さを切り捨てず、誰かと生きるなかで肯定していく眼差しは、家事も育児も一人で抱え込む必要はないと伝えた『西園寺さんは家事をしない』とも、根本でつながっている。
ここまで見続ければ、「好き」を深く掘り下げた素晴らしい作品だったことが分かる。それだけに、序盤のやや過剰なコメディ演出で、もし離れてしまった視聴者がいるとするならば惜しい。杏奈の一人ミュージカルや映画『シャイニング』のパロディーなど、作品の温度に慣れる前から遊び心のある演出が次々と続き、その勢いに置いていかれた人も多かったように思う。
しかし、コメディーに振り切ったこと自体は、本作の大きな魅力でもある。回を重ねるほどに杏奈や瀬尾、その周囲の人々が愛おしくなり、彼らが繰り広げるにぎやかな騒動も楽しみになっていった。今期は考察ドラマやシリアスな作品が多かっただけに、明るいエンターテインメントを貫いた本作に心を癒やされた視聴者も多いだろう。最終回を前に、杏奈や瀬尾たちとの別れが惜しくなるのは、彼らがいつの間にか、毎週会いたい存在になっていたからだ。『君の好きは無敵』は、視聴者の心にも確かな「好き」を育てたのではないだろうか。
■放送情報
火曜ドラマ『君の好きは無敵』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜22:57放送
出演:松本若菜、佐野勇斗、小野花梨、金田哲(はんにゃ.)、中村隼人、白本彩奈、島崎和歌子、藤井隆
脚本:宮本武史
演出:竹村謙太郎、府川亮介、渡部篤史、尾本克宏ほか
主題歌:星野源
プロデューサー:岩崎愛奈
協力プロデューサー:小髙夏実
編成:吉藤芽衣
取材協力:株式会社サンリオ
製作:TBSスパークル、TBS
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/kiminosukihamuteki_tbs/
公式X(旧Twitter):@kiminosuki_tbs