『5秒で完全犯罪を生成する方法』は“AI映画”を更新する? 現代人の思考停止をあざ笑う

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、『ターミネーター』の新作映画を待ち望んでいる玉置が『5秒で完全犯罪を生成する方法』をプッシュします。

『5秒で完全犯罪を生成する方法』

 SF映画において、AIは常に最高の相棒だった。

 1980年代ごろまでは『2001年宇宙の旅』におけるHAL 9000や『ターミネーター』のスカイネットのように、AIは冷徹に人類を排除しようとする得体のしれない神のような存在として君臨した。2000年代に入ると『A.I.』や『アイ・ロボット』のように“心”や“人間の存在”を問うような哲学的な存在へと成熟していく。そして、スマートフォンが普及した2010年代には、『her/世界でひとつの彼女』や『エクス・マキナ』のように、主人公が恋に落ちたり心理戦を繰り広げたりする“隣人”へとスケールダウン。さらに生成AIが急速に発展してきた2020年代、『M3GAN ミーガン』や『ザ・クリエイター/創造者』などで、育児から戦争まで人間の役割を“代替”する様子が描かれてきた。

 このように、これまでのAIは、人類のロマンや不安を映し出してくれる、極めて強烈なスパイスとなっていた。

 しかし2026年現在、映画とAIの関係は冷え切ってしまっているように感じる。3月に公開された『MERCY/マーシー AI裁判』は、AIがすべての裁判を代行するという設定こそ意欲的だったが、AIが典型的な“バディ”として主人公の味方に収まり、結果的に既視感のある王道に着地してしまった。『箱の中の羊』は自然とAIを対比させてメッセージ性に偏った結果、物語としてのカタルシスが行方不明に。現在放送中の日曜劇場『VIVANT』(TBS系)に至っては、AIがチート級に万能すぎて賛否が割れる始末だ。

 AIリテラシーが爆上がりしてしまった今、創作されたAIに対して「いや、AIはそんな挙動しないし」とついツッコミを入れてしまう観客は私だけではないだろう。テクノロジーの進化スピードがあまりに凄まじく、現実のほうがよほどフィクションじみている現代において、かつて映画の可能性を広げてくれたAIは、もはや映画から“フィクション”を奪う厄介な存在へと変わってしまった。AIを題材にした作品を、単なる“SF”として無邪気に楽しめなくなってしまった要因の一つはそこにもあるだろう。

 そんなAI映画の過渡期に、極めて現代的な切り口でAI映画に挑戦したのが『5秒で完全犯罪を生成する方法』である。

 舞台は現代。高校生の妹・幸来(原菜乃華)が意図せず殺人事件を起こしてしまうところから始まる。駆けつけたフリーライターの兄・航(重岡大毅)は、妹を守るために生成AI「chApple」に問いかける。「この事件を迷宮入りさせるにはどうすればいい?」と。そこから、罪を隠すために奔走する兄妹と、事件を追う警察とのクライムサスペンスが展開されていく。

 本作が秀逸だったのは、AIを“近い未来の脅威”としてではなく、現代人が思考停止で頼り切っている“日常の便利ツール”として描いている点だ。

 その“思考停止”を体現する存在として、主人公の兄妹が見事に機能している。観客がイライラするほどバカな行動を繰り返し、自らの頭で考えることを放棄してAIの指示に盲従。そしてどんどん道を踏み外していく……。一見すると共感も応援もありはしないのだが、それが逆に思考力を失った現代人への特大の皮肉として、これ以上ないほど効いているのだ。そこに、AIの声を担当する早見沙織が、感情を排した癒やしボイスで淡々とエグい犯罪計画をレクチャーしてくるシュールな距離感もたまらなかった。原菜乃華の終始一貫した“被害者面”もお見事。

 だが、彼らが盲信するAIがいくら賢くても、現実はノイズだらけ。AIによる“完璧な計画”は、警察が追っていた別の連続殺人事件の特徴と“偶然”リンクしてしまう。この先の展開はかなりの強引さは否めないものの、皮肉な偶然の連続が、全く別の危機を呼び込む構造は痛快だ。

 そして最後に待ち受けるのは、どんでん返しで皮肉な結末。現代社会への強烈な警鐘を感じ取れるラストには、思わずゾクリとさせられる。なるほど、だからこういうタイトルだったわけか、と。

 我々は日常的にAIを便利な道具として支配している気になっている。だが、本当にそうだろうか。自ら考えることを放棄し、AIの弾き出した“答え”に従うこの社会において、我々はAIを使っているのか? それとも、AIに使わされているのか? そんな問いを突きつけてくる意欲作であった。

■公開情報
『5秒で完全犯罪を生成する方法』
全国公開中
出演:重岡大毅、原菜乃華、田中みな実、伊藤歩、黒田大輔、森岡龍、九十九黄助、石丸幹二
原案・脚本・プロデュース:岡田道尚
監督:近藤亮太
配給:ギャガ
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