『Tシャツが乾くまで』千葉行利Pが最終回に込めた願い 私たちの“フィルター”を外す物語

――キャスティングも本当に魅力的です。特に、生方さんが大ファンだと公言されていた蒼井優さん、そしてご自身でも「僕にとっては、これまでで最も大きな仕事になる」とコメントされていた中島歩さんとの化学反応が素晴らしかったです。実際に撮影されてみて、いかがでしたか?

千葉:こちらとしても想像以上でしたね。今作において、中島さんが演じている樹生という役はとても難しいキャラクターなんです。前半は、蒼井さん扮する咲子の相手役として物語を引っ張っていく。それだけ視聴者を引きつける魅力的なキャラクターでなければならない。でも、台本上は微妙に“残念な感じ”のある人物なんです(笑)。中島さんご自身は、背も高くて、ルックスもいいじゃないですか。だからこそ、そんな自分の良さに気づいていない、なおかつ自分のダメさにも気づいていない。そういう感じで演じてもらえたら、面白いんじゃないかなと思っていました。ご本人はすごく真面目な方なので、樹生のセリフや佇まいを、腑に落とすまでの作業がとても大変だったとおっしゃっていましたね。つい先日、中島さんともお話したんですけど、「全部のシーンが演者にとって最初から腑に落ちるものだけだったら、ドラマとしては面白くないよなって、今は思っています」といったことを、おっしゃっていました。もちろん、蒼井さんの役もすごく複雑なキャラクターです。樹生と境遇は近いかもしれないけれど、喪失の種類が違っているので。愛する人が帰ってくるのかこないのかわからないなかで、どう気持ちを持っていけばいいのか。蒼井さんも中島さんもそれぞれが、自らの役をどう表現したらいいのかという模索をしながら、それでいてお互いのお芝居に「こういうふうにやってくれるんだ」と刺激を受けながら、撮影が進んでいった印象です。

人の感情には、時間差がある

――印象的なシーンの連続ですが、千葉さんが特にお好きな場面はありますか?

千葉:視聴者のみなさんからもかなり反響があったシーンなんですが、第1話でバス事故の知らせを受けた咲子が、充の所持品を確認しながら「いつ見つかりますかね? 明日? 明後日とか」という場面です。少し明るく振る舞いながらも、込み上げてくる感情が伝わってくる。このシーンを演じられるのは、蒼井さんしかいなかったなと改めて思います。生方さんの脚本について最初に議論したのが、登場人物たちがわかりやすく泣き叫ばないことでした。身内が亡くなっている、あるいは絶望的な状況なのに、ちょっとライトにしゃべっていたり、笑顔を浮かべたりしている。そんな人物描写に視聴者のみなさんの心が離れていかないかなという話はしました。でも、人の感情って実際には時間差があると思うんです。生方さんは、そういうリアルをすごく求めているんですよね。このシーンについても、「見つけてください!」って泣きながら警察官たちに詰め寄る、みたいなセリフにもできると思うんです。むしろ、そのほうがドラマとしては咲子の悲しみが伝わりやすいとすら思います。でも、この作品だと「見つかりますかね?」とくる。これには最初に脚本を読んだときには僕自身少し不安になりましたけど、視聴者のみなさんにしっかりと刺さっていたので流石だなと。生方さんの言い回し、そして蒼井さんの演技力に度肝を抜かれたシーンでした。それから第6話で、充(松山ケンイチ)が帰ってきて混乱している咲子に、樹生が「泣きました?」って聞くシーンも好きでした。「はい、さっき。割としっかり」って答えるセリフに、これぞ生方節だなと唸らされました。なんというか、自分の感情とか本音を言うんですけど、そこには相手を思いやってユーモアを入れてくる。そんなセリフたちがとても印象的です。

――夏帆さん演じるあずさの「ついて行きたいかもしれません」というセリフにも、「ドラマのセリフ」という感じがしないところがあるように思いました。

千葉:そうですね。そういうふうに言う人っているなっていう生っぽさというか、アドリブっぽく見えるんですよね。本当にそういう人なんじゃないかと思わせるリアリティが生まれているように思います。


――SNS上では、帰ってきた充の言動に対する議論も白熱しました。


千葉:それも本当に、松山さんやみなさんのお芝居がお上手だからこそですよね。もちろん、全部台本通りです(笑)。

――先ほど「ドカンと言わせない脚本」というお話がありましたが、リリー・フランキーさん演じる宮内さんは、前半からストレートな物言いでざわつかせていましたね。

千葉:生方さんは、あえて、そういう人物を置いたんでしょう。現実にも少し話を盛って相手が傷つくのを眺めるタイプの人っていますし、そんな毒っ気のある人物もリリーさんだからこそ憎めないキャラクターにしてくださったなと思っています。

――他にも高橋文哉さん扮する直人、そして臼田あさ美さん演じる千鶴など、みんなから好かれそうで、そうではない部分も持ち合わせているキャラクターも本作の魅力でした。

千葉:今回は脚本がかなり早くから出来上がっていたので、キャストのみなさんにはオファーの段階であらかじめ何話分かをお渡ししていたんです。みなさん「すごく面白いからやってみたい」とおっしゃってくださって。結果として、こんな素晴らしい方々に勢揃いしていただいて、本当に感謝しきれません。

――今夜、最終回となりました。視聴者のみなさんへのメッセージをお願いします。

千葉:これまで、うっすら感じが悪かった人たちだったり、それすらチャーミングに見えていた人たちだったりが、最後にどこへ着地するのか。みなさん、それぞれに「こうなってほしい」という希望があると思いますが、最後まで見届けていただけたらうれしいです。そして、このドラマを観てすぐに何かが変わるとは思いませんが、時間差であっても「他人に対する目線が厳しい」この世界が、少しでもやさしくなってくれたらと願っています。

■放送情報
金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送(最終回は5分拡大放送)
U-NEXTにて、各話放送直後より配信
Netflixにて配信中
出演:蒼井優、中島歩、高橋文哉、夏帆、松山ケンイチ、リリー・フランキー、臼田あさ美、齋藤飛鳥、庄司浩平、久保田薫、飛永翼ほか
脚本:生方美久
演出:土井裕泰、塚本連平、小牧桜
音楽:haruka nakamura
主題歌:スピッツ「見知らぬ糸」(Polydor Records)
プロデューサー:千葉行利、宮川晶
製作:ケイファクトリー、TBS
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tshirt_ga_kawakumade_tbs
公式X(旧Twitter):@tshirts_tbs

関連記事